【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2015年9月19日土曜日

パブコメ、盗聴、死の商人 安保法制の影で


【メディア草紙】1975 2015年9月19日(土)
■パブコメ、盗聴、死の商人 安保法制の影で■


▼安保法制の影で、幾つもトンデモない動きがある。とりあえず目についたものを3つだけ挙げておく。

1 「改正」派遣法のパブリックコメントがわずか3日
2 刑事司法改革法案の通信傍受立ち会い排除
3 経団連の「死の商人化」宣言


▼まず1番目。「改正」派遣法のパブリックコメントが、わずか3日間で打ち切られた件。産経WESTが記事にしていた。


――――――――――
2015.9.17 19:34 
〈改正派遣法のパブコメわずか3日間 原則の10分1の日数 厚労省

11日に成立した改正労働者派遣法の政令に対するパブリックコメント(意見公募)をめぐり、厚生労働省が原則として30日間設けなければならない募集期間を、3日で打ち切ったことが17日、分かった。今月30日に迫る同法の施行日に間に合わせるために期間が短縮されたが、関係者の間では疑問の声が上がっている。

パブコメ制度は行政手続法で原則として30日以上の募集期間を設けることとされている。厚労省は衆院で11日に可決、成立した改正労働者派遣法の政令と省令、告示計10件に対するパブコメを実施すると15日に公表。ところが募集期間は17日までの3日間とされた。

同法は野党の反対で国会審議と成立が大幅に遅れ、施行日も当初予定の9月1日から30日へ延期された。厚労省は「パブコメ手続きを施行日までに終わらせるために、3日間に短縮した」としている。

これに対し、労働組合関係者は「わずか3日間では意見を提出する機会が奪われる」と反発している。〉
――――――――――


▼ひでえナ。行政手続法の「第六章 意見公募手続等(命令等を定める場合の一般原則)」を読むと、30日以上ってのは、あくまでも「原則」だから、期間を縮めても違法ではないんだナ。よって罰則などない。ニッポン社会に蔓延している「公文書至上主義」の裏返しで、「だって法律に書いてないもん」というわけだ。罪に問われなければ何をしてもいいから、こうした厚顔無恥な仕事も進めることができる。

「改正」派遣法そのものの問題点は、グーグル博士に聞けば山ほど出てくるので省略。


▼2つめの「刑事司法改革法案の通信傍受立ち会い排除」。これは衆院は通ったが、安保法案がモメたから参院は時間切れ、今国会での成立は断念、という僥倖に恵まれた。マスメディアはこの法案の問題点を大きく報じていない。おそらく今後もこの法案に焦点を合わせることはないだろう。

これ、もともとは大阪地検特捜部の証拠改竄(2010年。もう5年も経つんですね)をきっかけに、「冤罪を防ぐための可視化」が目的だったのだが、捜査のための「武器」を強化しまくる法律に変容した。なんともはや。どこで誰がいじくったのかを辿ることが大事なのだが、とくにひどいのは通信傍受だ。

通信傍受の拡大、つまり盗聴の拡大について、衆院を通った時点での朝日の記事に、仰天の内容がチラリとだけ書かれてある。要注目の箇所は【】。


――――――――――
2015年8月6日付
〈通信傍受 第三者立ち会わず

通信傍受は対象犯罪の範囲を拡大し、薬物や銃器など4類型に組織的な詐欺や窃盗など9類型を加える。また、【従来は警察が通信業者の施設に出向き、第三者の立ち会いのもとで傍受する必要があったが、警察の施設でも傍受でき、第三者の立ち会いも不要とした。】

委員会では野党から「プライバシーを侵害する恐れがある」との指摘が相次いだ。このため、【修正案には盛り込まなかったものの、与野党の合意で「傍受の際には事件に関係のない警察官が立ち会う」という運用面の方針を確認した。】〉
――――――――――


▼まず、4類型から9類型ってのは、これまでは「薬物、銃器、集団密航、組織的殺人」の4類型だったのが、新しく「放火、殺人、傷害、逮捕監禁、誘拐、窃盗、詐欺、爆発物使用、児童ポルノ」の9類型を追加するということ。

で、一つめの【】をくわしく説明すると、〈現在は電話会社の施設に捜査員が出向き、従業員の立ち会いのもとで傍受しているが、今後は、第三者の立ち会いを不要にするほか、電話会社から捜査機関に通信内容をデータ送信し、検察・警察で聴くことも認める〉(6月13日付朝日)ということだ。

一言でいうと「盗聴し放題」にするわけだ。

で、そりゃまずいだろ、ということで、二つめの【】なのだが、よく読んでみましょう。【「傍受の際には事件に関係のない警察官が立ち会う」という運用面の方針を確認した】とある。

つまり、警察が通信傍受するのに、警察が立ち会うわけだ。これ、第三者でもなんでもないよね。しかも法律の文言に入れるわけではなく、「運用面の方針を確認した」だけ。こんなことやってる国、中国とかロシアくらいじゃねえのか? この問題も、グーグル博士に尋ねると日弁連による指摘とか山ほど出てくるので以下略。


▼三つめの経団連「死の商人化」宣言。朝日記事から。


――――――――――
〈武器輸出「国家戦略として推進すべき」 経団連が提言
小林豪2015年9月10日19時50分

経団連は10日、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を公表した。10月に発足する防衛装備庁に対し、戦闘機などの生産拡大に向けた協力を求めている。

提言では、審議中の安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割が拡大するとし、「防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には中長期的な展望が必要」と指摘。防衛装備庁に対し、「適正な予算確保」や人員充実のほか、装備品の調達や生産、輸出の促進を求めた。

具体的には、自衛隊向けに製造する戦闘機F35について「他国向けの製造への参画を目指すべきだ」とし、豪州が発注する潜水艦も、受注に向けて「官民の連携」を求めた。産業界としても、国際競争力を強め、各社が連携して装備品の販売戦略を展開していくという。〉
――――――――――


▼この記事に目を剥いた5日後、経団連はこの提言を正式に決定したそうだ。


――――――――――
〈武器輸出の推進を提言 経団連、防衛産業強化求める
2015年9月16日05時00分

経団連は15日の幹事会で、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を了承し、正式決定した。自衛隊の活動範囲が今後広がることを見込んで、政府に防衛産業の基盤強化を求めている。しかし、その前提となる安全保障関連法案への国民的な理解は広がっておらず、経団連の性急な姿勢には批判も出ている。

提言は、安保関連法案が成立すれば、「自衛隊の活動を支える防衛産業の役割は一層高まる」とし、10月に発足する防衛装備庁に対し態勢の強化や防衛装備品の生産拡大、輸出促進に向けた協力を求める内容だ。

提言を作成したのは、三菱重工業の宮永俊一社長が委員長を務める経団連の防衛産業委員会。防衛産業に関わる約60社が属する。

安倍政権は昨年4月、武器輸出三原則を撤廃し、武器の輸出や共同開発を本格化させた。しかし、提言では長期的な具体策が不明確だとし、「防衛関連事業から撤退する企業が出ている」と危機感を強調した。

経団連には、2019年度からの中期防衛力整備計画に提言を反映させたい思惑もある。中谷元・防衛相は15日の閣議後会見で「政府の関与と管理のもとで、円滑に協力を進めていく態勢、仕組みはしっかりと検討したい」と語った。(後略)(小林豪)

■武器輸出三原則の撤廃後、政府が決めた武器輸出や共同開発

<昨年7月> 
・米国に地対空ミサイル「PAC2」の部品を輸出。三菱重工業が製造
・戦闘機に搭載するミサイルを英国と共同開発 

<今年5月> 
・豪州との潜水艦の共同開発に向け、同国の選定手続きに名乗りを上げる。三菱重工業と川崎重工業が参画 

<今年7月> 
・イージス艦用表示装置の共同生産に向け、米国にソフトウェアと部品を輸出。三菱重工業と富士通が生産〉
――――――――――


▼わが国最大の経済団体が、「国をあげて武器で儲けろ」と絶叫しているわけだ。ニッポン社会はこの驚くべきニュースに反対の声や異論をほとんど挙げない。言挙げしない。はっきりいって狂っていると思うが、読者の皆さんはどう思われるだろうか。

安保法制も、この巨大な「資本主義の流れ」に乗っているのではないだろうか。ニッポン社会そのものが、何十年もかけて、資本主義に侵されつつある、その一環として。

▼上に上げた三つのニュースを読むと、ニッポン社会の何かが、明らかに壊れていると感じる。かすかに機能していた「良心」というか「堤防」のようなものが(それをどう表現すればいいのかちょっとわからない)、気づけば決壊していた。つい先日の鬼怒川のように。これは安倍晋三総理が愚かだとか(そりゃ愚かなんだが)、そういう次元の問題ではない。

とくに経団連の「死の商人」化について、最初からこんなに狂っていたのかどうか、新聞記事をさかのぼってみると、隔世の感とはこういうことかと骨身に沁(し)みたので、次号はそのメモを共有したい。


▼本誌をEマガジンで登録されている方は、「メルマ!」か
「まぐまぐ!」での登録をオススメします。

メルマ
http://melma.com/backnumber_163088/

まぐまぐ
http://search.mag2.com/MagSearch.do?keyword=publicity


▼ブログは
http://offnote21.blogspot.jp/

frespeech21@yahoo.co.jp
竹山綴労


(読者登録数)
・Eマガジン 4664部
・まぐまぐ 121部
・メルマ! 80部
・AMDS 20部