【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2015年2月22日日曜日

沖縄メモ 在沖縄アメリカ軍海兵隊幹部の暴言

▼10日ほど前の報道のメモ。

記事そのものがニュースになる場合がある。「ジャパンタイムズ」が、そういう記事を書き、琉球新報が報道した。

〈抗議市民のけが主張「ばかばかしい」 海兵隊幹部が批判
琉球新報2015年2月11日

米軍普天間飛行場移設に伴う辺野古新基地建設をめぐり、警察や海上保安庁の警備行動で新基地建設に抗議する市民らにけが人が出ていることについて、在沖米海兵隊の報道部次長が「ばかばかしい(Laughable)」と発言していたことが分かった。英字新聞のジャパンタイムズが9日付の電子版で報じた。

1月5日にキャンプ・シュワブのゲート前の抗議行動などでけが人が相次いでいることなどを報じたジャパンタイムズの記者に対し、在沖米海兵隊報道部のケイリブ・イームス大尉が記事に反論するメールの中でコメントした。〉

▼もともとのジャパンタイムズがどういう記事かというと、こんなに大きな扱いだ。


▼そして、同じこの記事を、とうとう全国紙の朝日新聞も報じた。

〈反対運動でけが「ばかばかしい」 辺野古巡り海兵隊幹部
朝日新聞デジタル2015年2月11日21時35分

 10日付ジャパンタイムズによると、海兵隊報道部次長の大尉が、英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェルさんに対し、基地反対運動をサッカーに例えて「けがをしたように見せる姿はばかばかしい」という文章を含むメールを送ってきたという。〉

▼もう一つ、最近の米軍がやらかしている暴言の全容がわかる琉球新報の社説を引用しておく。

<社説>海兵隊暴言続発 ご都合主義の隣人は退去を
2015年2月14日 

〈(暴言が)これほど続くのなら、もはや個人的な見解などではない。海兵隊組織全体に広く巣くう偏見に満ちた思考だと言わざるを得ない。(中略)侮辱発言は大尉だけではなかった。海兵隊の米軍北部訓練場司令官のティム・カオ少佐は東村高江のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)移設工事に住民が反対運動をしていることについて「反対運動は共産党からお金をもらっている」などと事実無根の暴言を吐いていた。

 さらにロバート・エルドリッジ在沖米海兵隊外交政策部次長はイームス大尉の発言を最初に報じたジャパンタイムズの記事について「目を覚ませ」と書き込み、大尉を擁護している。

 琉球新報は3人に電話、電子メール、直接会うなどして発言の真意を確認したが、3人とも回答していない。発言に自信を持っているのなら、堂々と説明すべきだろう。(中略)ご都合主義の「隣人」は県民にとって迷惑だ。この際、沖縄から出て行ってもらった方がいい。〉

▼朝日新聞が報道した記事は、東京発の新聞が英字紙を挟んで沖縄の実情を後追いした珍しいケースだ。もしこれが琉球新報か沖縄タイムスのスクープだったら、どうなっていただろう。


2015年2月14日土曜日

東京都港区の泉岳寺が大変なことになっている件

 
 
【PUBLICITY 1966】2015年2月14日(土)
■東京都港区の泉岳寺が大変なことになっている件■
freespeech21@yahoo.co.jp


▼ひょんなきっかけで東郷和彦さんと再会した。「週末に泉岳寺(せんがくじ)で市民講座というものをやります」と小冊子とチラシをいただいたので、ご紹介。あした2月15日(日)の午前10時から。〈赤穂浪士の泉岳寺から、日本の風景・景観を考える〉。東郷さんの演題は〈赤穂四十七士の「心」と日本人の「公」〉。お近くの方や、気になる方はどうぞ。



東京の港区に泉岳寺という寺がある。忠臣蔵(ちゅうしんぐら)の四十七士の墓で知られるが、現在、この泉岳寺の隣に大きなマンションがすでに建設中とのこと。これをなんとか止められないかと奮闘している人たちがいる。小冊子に載っている完成予想図を見たが、こりゃひどいね。抑えめに表現しても「台無し」と言わざるを得ない。

疑問をもった吉田朱音氏が港区役所に問い合せてみると〈文化財や史跡になっているものは、それ単体を守るものはあっても、景観も含めて守れるものはありません。という、信じられないようなことでした〉(『平成忠臣蔵』18頁、公人の友社)。
http://koujinnotomo.com/newfile/chihoujichijarnal66/chihoujichijarnal66.html

これまでの活動記録を順を追ってみていくと、昨年後半から今年にかけて一気に運動が広がっていることがわかる。客観的には「時すでに遅し」の感があるのだが、なんとか食い止められるかもしれないと思わせる勢いだ。
http://sengakuji-mamoru.jimdo.com/activity-log/
映像資料も充実した見やすいホームページです。

▼キーワードは「違法ではない」だ。今のニッポン人は「違法ではない」に弱い。違法ではない、「だから」と続けるのか、違法ではない、「しかし」と続けるのか。「だから」のほうが楽だ。

ここで「公(おおやけ)」という問題が浮かび上がるのだが、こうした問題に気づくきっかけとなったり、共有したりする「場」そのものが乏しい。だから列島のあちこちで同じようなことが起きているわけだ。

東郷さんや、ユネスコ元事務局長の松浦晃一郎氏が出席する泉岳寺での連続市民講座は、そうした乏しい貴重な「場」の一つになるだろう。

この泉岳寺問題は、いくつかの新聞やテレビでも報道されてきたから、本誌読者で知っている人もいるだろう。『平成忠臣蔵』という小冊子についてはつい数日前、東京新聞で報道された(鈴木久美子記者)。適宜▼

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/20150211/CK2015021102000143.html
〈泉岳寺景観 「義」で守る 反対住民ら冊子「平成忠臣蔵」
2015年2月11日

隣接地でマンション建設が進む泉岳寺(港区)の景観を守ろうと、建設に反対している住民や寺、大学教授らが記したブックレット「平成忠臣蔵 泉岳寺景観の危機」(公人の友社)が今月、出版された。著者の一人は「建築基準法は景観など関係がない。この問題を全国の人に知ってもらいたい」と話している。

▼著者は、「国指定史跡・泉岳寺の歴史的文化財を守る会」広報担当の吉田朱音さんと、泉岳寺の受処(うけしょ)主事牟田賢明(けんみょう)さん、法政大名誉教授で日本景観学会会長の五十嵐敬喜さんら。いずれも昨年夏にマンションの建設計画が明らかになって以降、この問題に取り組んできた。

ブックレットでは、問題の経緯のほか、泉岳寺の成り立ちや世界遺産との比較、「忠臣蔵」で海外にも知られる赤穂浪士の「義」のとらえ方など文化的な内容も盛り込まれる。港区や区議会に働きかけを続ける吉田さんは「こうした問題が二度と起こらないよう『解決策』を考えたい」と語った。一冊八百六十四円。

▼一方、「守る会」は、泉岳寺を通して日本の景観を考えようと、第一回「泉岳寺特別市民講座」を十五日午前十時~午後零時半に開く。「赤穂四十七士の『心』と日本人の『公』」のテーマで、元オランダ大使の東郷和彦さんと五十嵐さんが講師を務める。

第二回は二十二日午後三時~五時半、テーマは「オリンピックに向けて東京を文化都市に-世界からみた泉岳寺の景観問題」。講師は、元国連教育科学文化機関(ユネスコ)事務局長の松浦晃一郎さんら。

会場は泉岳寺講堂。各回、定員六十人、参加費千円。問い合わせは吉田さん=電080(4079)5569=へ。〉

▼この「守る会」に協力している五十嵐敬喜氏は、小冊子で興味深い事実を指摘している。泉岳寺は世界遺産になる可能性があるというのだ。「いやあ、さすがに無理でしょ」と思った人は、「南アフリカのロベン島」や「アウシュビッツ収容所」が世界遺産になっていることをご存知だろうか。

世界遺産を選ぶ基準はいくつかあるが、その6番目に「顕著で普遍的な重要性を持つ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的作品と関連すること」とある。つまり「物語」があるかどうか。アウシュビッツ収容所はこの6番目の基準のみで世界遺産に選ばれた。


「文学的作品と関連すること」という観点が、泉岳寺と関連する。「忠臣蔵」はニッポン人がだいたい知っている物語だ。そして「仮名手本(かなでほん)忠臣蔵」は、〈おそらく日本文学の中ではじめて外国語に翻訳された作品〉(ドナルド・キーン『日本文学の歴史8』中央公論社)であり、「武士道」の象徴だ(『平成忠臣蔵』72頁)。「武士道」には賛否両論あるけれども、「南部坂雪の別れ」にシビれた身としては、この議論は面白い。

このままマンションが完成すると、東京オリンピックで羽田空港にやってきた海外の観光客が、JR品川駅で東京の地に降り立ち、近くにある泉岳寺にやって来た時、「ああ、この建物は今のニッポン人は大切にしていないんだね」と丸分かりになる。京都をはじめ散々な目に遭っているニッポンの文化財の膨大なリストに、新しい被害物件がまた一つ増えてしまうのは、ぼくは残念だ。
 
 
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2015年2月11日水曜日

脈打つ自己決定権~琉球新報から

 
 
――――――――――――――――――――――――――――
沖縄はもと海洋国家であった。
神奈川県と等面積だと、土地だけで括ってはイメエジが狂う、
その水域のひろがりはニッポン列島に拮抗するのである。

竹中労『琉歌幻視行 島うたの世界』207頁
1975年8月25日第1刷 田畑書店
――――――――――――――――――――――――――――
 
 
【PUBLICITY 1965】2015年2月11日(水)
■脈打つ自己決定権~琉球新報から■
freespeech21@yahoo.co.jp

▼百聞は一見にしかず。いま沖縄で振るわれている暴力について琉球新報1月23日付に衝撃的な4枚の連続写真が載った。建国記念の日の朝、紹介するにふさわしい写真だ。

その写真の説明文は〈海上保安官が影山あさ子さんに馬乗りする連続写真(上から下へ)。保安官は背後から左手でカメラをつかみ、守ろうとしゃがみ込む影山さんの左肩から左足を乗せて馬乗りしている=20日午後2時35分、名護市の大浦湾(金良孝矢撮影)〉となっている。

いったい何が起きているのか。

海保、説明に矛盾 馬乗り写真「女性かわした」
琉球新報2015年1月23日付

名護市の大浦湾で20日、米軍普天間飛行場の同市辺野古沖移設に反対する市民らの抗議船に乗船し、海上作業の様子を撮影していた映画監督の影山あさ子さん(51)が、船に乗り込んできた海上保安官に馬乗りにされた件で、第11管区海上保安本部は22日、琉球新報の質問に対して「馬乗りになったという事実はない。過剰警備には当たらない。(海上保安官は)かじがある船体後部へ通り抜けるために女性をかわして奥に進んだ」と回答した。

琉球新報の写真部員が撮影した写真を検証すると、海上保安官は船体後方から現れ、背後から影山さんのカメラを執拗(しつよう)に奪おうと左手を伸ばし、さらに左足を肩から乗せている。通り抜けようとする行動は確認できず、11管の説明は矛盾している。

11管は「通路は人一人が通れるくらい。女性がこの位置にいては通れなかった」と主張したが、写真では後方から影山さんの頭に手を掛け、カメラを奪おうとつかみかかる姿が記録されている。影山さんが抵抗すると、海上保安官は肩口から左足を伸ばして馬乗りになって体重を乗せている。その後に足を引き抜いたが、通り抜けるそぶりは見せていない。

海上保安官は馬乗りになる前にすでに船体後部にいる。「船体後部へ通り抜けるため」との11管の主張と実際の状況は食い違う。

影山さんは「誰も見ていないと思って平気でうそをついている。海保は(私の)カメラを壊してもいいと思っているように感じた。法を守る立場なら、事実を誠実に明らかにするべきだ」と指摘した。〉

▼こうした暴力事件の報道は、いまの沖縄の新聞では日常茶飯事になっている。東京発の新聞はこうした事実をほとんど報じていない。沖縄の米軍基地問題に少しでも関心のある人は、ぜひ沖縄タイムスか琉球新報の実物を一度見ることをオススメする。

「知らない」ことは、「存在しない」ことになる。

▼もう一つ、琉球新報の記事を紹介する。2月4日付1面トップは【琉米・琉仏・琉蘭条約の原本、141年ぶり里帰り】という記事だった。

琉球国が1854年に米国、55年にフランス、59年にオランダと締結した修好条約の3原本が27日から浦添市美術館で展示される。原本は74年5月に明治政府によって没収され、外務省が保管している。沖縄での展示は初めてで、141年ぶりに海を渡る。

国際法の専門家は「3原本は琉球が当時、国際法の主体として主権を有していた証し」と指摘している。米軍基地問題などをめぐって沖縄の自己決定権要求が高まる中、今回の里帰りは沖縄の「主権回復」を求める議論に影響を与えそうだ。

(中略)明治維新の後、政府は琉球国の併合をもくろみ、外交権剥奪に乗り出す中で73年3月、3条約の提出を琉球に命じた。琉球側は粘り強く抵抗したが、最後は政府の強硬姿勢に屈し、74年5月、津波古親方政正が条約原本を携えて船で上京、政府へ引き渡した。現在、外務省外交史料館が原本を保管している。

3条約の原本は27日から3月29日まで浦添市美術館で開かれる「琉球・幕末・明治維新 沖縄特別展」(主催=琉球新報社、協同組合・沖縄産業計画)で展示される。(新垣毅)〉

▼さらに8日付1面トップもこの続報だった。


〈琉仏条約、仏にも原本 「琉球は独立国」認識
自己決定権 議論に影響
2015年2月8日 

琉球国が1855年にフランスと交わした琉仏修好条約のフランス側の原本が、フランス・パリ東部に隣接するヴァンセヌ市の海軍公文書館に保管されていることが7日までに分かった。

(中略)フランス側の原本が確認されたことで、フランスは当時、琉球国が主権を持つ独立国家と認識していたことが裏付けられた。(中略)今回フランス側の原本が確認されたことで、沖縄の自己決定権拡大や「主権回復」を求める議論に影響を与えそうだ。(新垣毅)〉

▼同3面には〈琉球人の主張は正当〉という見出しで、当時のフランス代理公使の手紙が紹介されている。(※)は竹山の註。


――――――――――――――――――――――――――――
琉球併合(※1879年の日本による琉球処分)間近の78年、(※すでに1855年に結んでいた琉仏)条約を根拠に(※琉球国の)三司官から救国を要請された(※フランスの)ジェフロワ代理公使は日本との摩擦は有益ではないと判断、(※琉球処分に)介入しなかった。

一方で、要請の約2週間後、同僚の在中国使節への手紙で自身の見解を示し、琉球の主張の正当性を認めている。

手紙には「琉球人の善良さは興味深く、彼らの主張は正当である。日本人は厚かましくも彼らを併合し、その件について中国が同意したものと万人を信じさせようとしている」と記されている。
――――――――――――――――――――――――――――


▼さらに解説記事には〈条約相手国の原本が確認されたことで、当時の列強国が琉球国に主権を認めていた証しが増えたことになる。自己決定権への要求が高まっている沖縄にとって、これら3条約は今後、日米両政府や国際社会に「主権回復」を訴える場合には礎になり得る〉とある。

ぼくはここで三つの新聞記事を引用したが、それだけでもけっこう知ることができるだろう。今の沖縄には、本土とまったく違う政治的な流れが脈打っていることを。

キーワードは「自己決定権」だ。ぼくは今の沖縄の事実と論調を、どれだけ紹介してもしすぎることはないと思っている。続きはまた今度。


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2015年2月9日月曜日

『国家と秘密』を読む〜実害編その3

 
 
【PUBLICITY 1964】2015年2月9日(月)
■『国家と秘密』〜実害編その3
freespeech21@yahoo.co.jp

▼実害編の最終回です。今号は

・制度設計をめぐる官僚の無能
・沖縄密約の顛末
・戦後外交文書の公開からわかること

の三本柱。

▼『国家と秘密』(集英社新書)には、「維新の党」が〈官僚の思うつぼにはまった〉(168頁)事例が挙げられている。

特定秘密保護法について少し調べた人なら誰でも、「特定秘密の延長期間」について読んだ覚えがあるだろう。特定秘密が特定秘密である期間は「5年以内」だが、「30年」まで延長できる。さらに、閣議決定によって最大「60年」まで延長できるようになった。じつは暗号などはさらにさらに期間を延ばすことができる。どんだけ~

▼そもそもこの法律は【外務大臣や防衛大臣が特定秘密を扱えない】ようになっている。要するに官僚が暴走した時、誰も止められない(国会が機能しない)ところに最大の問題があるのだが、ま、そのうえで、「60年」について。

▼これは〈自民党と日本維新の会との修正協議で合意された部分〉であり、瀬畑源氏は〈維新の会はこれによって年数に歯止めをかけられたと考えたわけですが、私はこの報道を見た時、公文書管理制度を理解できていないから「良くなった」と勘違いしたのではないかと思いました〉(166頁)という。

なにをどう勘違いしたのか。これ、とってもややこしくて長い説明になっちゃうのだが、次の「カラクリ編」にもつながる話なので、興味のある人は読んでみてね。法律だけつくってもまるでダメだということがよくわかる。

「秘密保護法」の場合は、「公文書館」の存在を埋め込んだ「制度設計」を考えなければならなかった。具体的には「情報公開法」「公文書管理法」との関係を考えずに突っ走ったから、「特定秘密保護法」は弊害ありまくりの代物になってしまったわけだ。

大事なところは適宜【】。ぼくの感想は(※)。


――――――――――――――――――――――――――――
そもそも、各行政機関の長が「特定秘密」を指定し、かつ監視機関が強力でなければ、必然的に「期間を延ばせるだけ延ばす」という心理が働きます。すでに述べたように、【秘密を指定することは処分の対象になりませんが、解除すべきでないものを解除すれば処分の対象となる】でしょう。(※そりゃそうだ。だからわざわざリスクをとるはずがないね)

なお、「内閣の承認」が得られればとなっていますが、閣議で大臣たちがいちいち文書を精査してチェックすることは、時間的にも能力的にも不可能ですから、リストが提出されて、それを無条件で承認することになるのは目に見えているのです。

よって、むしろ【「六〇年まではOK」とばかりに秘密指定を延長するインセンティブが働く可能性が高い】です。さらに六〇年以上に設定できる情報も相当に範囲が広く、永久に指定し続ける可能性もありうるでしょう。年数に歯止めをかけるのなら、「原則最長三〇年+必要なもののみをさらに三〇年まで」とすれば、まだ話はわからなくはないのですが。

では、なぜこういう「勘違い」が起きるのか。それは、【「特定秘密解除」=「公開」と誤解されているから】ではないでしょうか。(※この一文が肝。以下、秘密保護法と公文書館とは本来どういう関係なのかを念頭に置いて読めばよくわかります)

第三章ですでに論じたように、【たとえ国立公文書館等に移管されたとしても、そこでさらに公開審査が行われるのであり、即公開ということにはなりません。】専門家によって公開してよいか否かの判断がなされるのです。

ですから、本来なら、特定秘密の指定を三〇年で原則解除して、国立公文書館等に移管をするのがあるべき姿なのです。もしくは、国立公文書館等の職員も適性検査を受けさせ、特定秘密のまま移管し、その解除は国立公文書館等の側に検討させるという仕組みがあってもよいのです。

【そうした仕組みが必要な理由は、各行政機関が公開・非公開を判断するのではなく、そこから切り離された機関が客観的に判断できるようにするためです。】また、各行政機関では古い文書は倉庫に山積みにされ、何が重要なのか分からなくなっていることが多く、紛失や誤廃棄などが起きやすいのです。

国立公文書館等では、文書がカビたりしないように、温湿度の管理などをしっかりと行っていますが、各行政機関ではそこまで保存方法をセンシティブに考えてはいないので、文書が劣化してしまって読めなくなる恐れがあります。

例えば、一九八〇年代~九〇年代にかけてワープロなどでよく使われた感熱紙は、扱いがずさんだと色が飛んでしまい、文章が読めなくなってしまうのです。

【本来ならば、専門的な知識を持つ国立公文書館等できちんと保存され、専門家の判断で公開・非公開を決めるような制度設計が必要なのです。】しかし、そういった発想がこの法律には欠けています。

国立公文書館等は独立行政法人であり、人員も少ないという「弱小」機関ですので、各行政機関は国立公文書館を信用していないと思われ、そのために「自分たちで特定秘密を抱え込む」という選択をしたがっているのです。それに維新の会は乗っかってしまったのです。国立公文書館の強化こそ先に必要なことだったのではないでしょうか。

『国家と秘密』166―168頁
――――――――――――――――――――――――――――


▼そうそう、信じられないことに、国立公文書館って独立行政法人になっちゃったんだよね。さらに弱まってしまった。ニッポンの官僚たちがどれほど「近代」の意味を理解していないかがわかる事例だ。法治国家における官僚の存在理由は、そして国民にご奉公した証しは、「公文書」しかないのにさ。

『国家と秘密 隠される公文書』の帯に載っていた写真。敗戦直後の通達だ。
よく見ないとわからないのだが、「本文書ハ焼却(しょうきゃく)相成度(あいなりたく)」と
書いてある。つまり「焼け」という命令。象徴的な一言だ。



実害編は、あと二つ挙げておしまい。「おわりに」から。

一つは、有名な沖縄密約をめぐる最高裁判決。


――――――――――――――――――――――――――――
この裁判は、沖縄返還をめぐる密約文書の開示を求め、元毎日新聞記者の西山太吉さんや作家の澤地久枝さんなど二三人が二〇〇九年に国を訴えていたものです。二〇一四年七月一四日の最高裁判決は、密約文書が存在したこと自体については、二審の東京高裁判決を支持し、認めざるをえませんでした。(※ま、当たり前だよね)

しかし、「すでに文書は廃棄された」という国側の主張を認め、「開示せよ」との訴えについては退けています。【情報公開の請求者に対し文書の存在を証明する責任まで求めた今回の判決は、情報公開法と公文書管理法の基本理念に反しており、行政が自分の都合で情報を隠すことを認める特定秘密保護法の論理に立つものです。】

184―185頁
――――――――――――――――――――――――――――


▼沖縄密約はほんとにひどい。元検事総長の松尾邦弘氏は以下のように語っている。――が記者、「」が松尾氏。

〈――(※西山さんの)有罪が確定して20年余り後の2006年、吉野さん(※吉野文六元外務省アメリカ局長)は「密約」の存在を認めました。

「当時、私は検事総長でした。危ない事件になった、と感じました。吉野さんが真相を語ったことで、検察の起訴判断時の土台は崩れてしまった。結果として、【『密約』という嘘を暴いた西山さんの有罪は確定したまま、嘘をついた方はお咎(とが)めなしという事実だけが残った】のです」

(中略)「(※当時)どういう形で申し合わせがあったかわかりませんが、【政権中枢や外務省関係者は明白に虚偽の証言をした。検察の調べに対しても、上から下まで虚偽の供述を重ねていたのです。国家権力は、場合によっては、国民はもちろん、司法に対しても積極的に嘘を言う。そういうことが端無(はしな)くも歴史上、証明されたのが密約事件です。】

【歴史の中で、あそこまで露骨に事実を虚偽で塗り固めて押し通したものはありません。】国家の秘密をめぐっては、こういうことがあるんだ、と検察官、裁判官も、事実として認識すべきです」(朝日新聞2014年12月10日付)〉

検事総長に「嘘をついた」って言われたら怖いよネ。

▼続いて最後の一つ。


――――――――――――――――――――――――――――
また、戦後外交文書の二〇一四年七月二四日の公開で、一九六一(昭和三六)年一一月の核兵器使用禁止を求める国連決議に日本政府が賛成投票したのは、国内世論に対する配慮からであったこと、一九六四年の中国の核実験に関していえば、警戒を強めていた米政府とは異なり、日本政府は極めて楽観的な見通しで臨んでいたこと、などが、初めて明らかになりました。

このような国の安全保障に関する重要な情報も、今回の特定秘密保護法の下では、半永久的に秘密に付される公算が高くなります。安全保障に関する情報といえども、「特定秘密」という例外扱いにせず、あくまで情報公開法と公文書管理法の枠組みの下に置いておくことの大切さが、改めて示されたといえるでしょう。

185―186頁
――――――――――――――――――――――――――――


▼次は「カラクリ」編と題して、さらに『国家と秘密』を読み込んでいきたい。


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2015年2月8日日曜日

追悼 後藤健二さん・湯川遥菜さん


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目を閉じて、じっと我慢。怒ったら、怒鳴ったら、終わり。
それは祈りに近い。憎むは人の業にあらず、裁きは神の領域。
-そう教えてくれたのはアラブの兄弟たちだった。

後藤健二 @kenjigotoip
2010年9月7日 22:49
――――――――――――――――――――――――――――


【PUBLICITY 1963】2015年2月8日(日)
■追悼 後藤健二さん・湯川遥菜さん■

▼後藤健二さんも、湯川遥菜さんに続いて殺されてしまった。その事実がわかったのは先週の日曜早朝だった。ぼくはタラル・アサドの『自爆テロ』(青土社)を読みながら机で寝てしまい、午前4時ごろ布団にもぐった。朝、テレビをつけるとだいたい後藤さん殺害のニュース一色だった。

同じ日曜の早朝に、追悼の文章を発信したい。


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「後藤さん殺害」映像、「イスラム国」が公開
首相「テロ許さない」

朝日新聞デジタル 2015年2月2日05時00分

過激派組織「イスラム国」は1日早朝、フリージャーナリスト後藤健二さん(47)=東京都港区=を殺害したとする映像をインターネット上に公開した。日本政府は、後藤さんの可能性が高いと判断している。会社経営者湯川遥菜(はるな)さん(42)=千葉市=を殺害したとする画像もすでに公開されており、日本人2人が拘束された人質事件は最悪の事態となった。安倍晋三首相は同日、記者団に「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために、国際社会と連携していく」と語った。

1日早朝に公開された新たな映像では、後藤さんとみられる男性がひざまずかされ、横にナイフを持った黒ずくめの男が立つ。男は英語で「安倍(首相)よ。このナイフは健二だけを殺害するのではなく、お前の国民はどこにいたとしても、殺されることになる」などと話し、男性の首にナイフをつきつける場面の後、遺体とみられる静止画が映し出される。「イスラム国」の宣伝を担うラジオ局も、後藤さんを殺害したと明らかにした。(中略)

「イスラム国」は1月20日、2人を人質とする映像を公開した。当初は72時間以内に身代金2億ドル(約236億円)を払わなければ殺害すると警告。24日には、湯川さんとみられる遺体の写真を持つ後藤さんの映像を公開し、後藤さんを解放する条件として、ヨルダン政府が収監する死刑囚の釈放を要求していた。

さらに29日には、後藤さんと死刑囚を交換する用意ができなければ、「イスラム国」が拘束するヨルダン軍パイロットを殺害するとのメッセージを公開。パイロットの安否は明らかになっていない。(星野典久、アンマン=渡辺丘)

■映像で流されたメッセージ(原文英語)

日本政府よ。邪悪な有志連合を構成する愚かな同盟諸国のように、お前たちはまだ、我々がアラーの加護により、権威と力を持ったカリフ国家であることを理解していない。軍すべてがお前たちの血に飢えている。

安倍(首相)よ、勝ち目のない戦争に参加するという無謀な決断によって、このナイフは健二だけを殺害するのではなく、お前の国民はどこにいたとしても、殺されることになる。日本にとっての悪夢を始めよう。
――――――――――――――――――――――――――――


▼さらに2日後、次のニュースが報じられた。


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ヨルダン軍パイロット殺害か 「イスラム国」が映像公開
アンマン=渡辺丘、渡辺淳基
朝日新聞 2015年2月4日04時57分

過激派組織「イスラム国」が3日、昨年12月に拘束したヨルダン軍パイロット、ムアーズ・カサースベ中尉を殺害したとする画像をネット上で公開した。ヨルダン軍は同日、国営テレビを通じて「画像は本物」としたうえで、「懲罰と報復を誓う」との声明を出した。

映像では、中尉が屋外に設置されたおりの中で、火をかけられた。国営テレビは「カサースベ中尉が殺害されたのは1月3日」と伝えた。

カサースベ中尉は米軍主導の対「イスラム国」軍事行動に参加して昨年12月24日、ヨルダン空軍のF16戦闘機でシリア領空を飛行中に「イスラム国」側によるとみられるミサイル攻撃を受けて墜落。「イスラム国」に身柄を拘束された。

ヨルダン政府は当初、2005年に起きたテロ事件の実行犯として死刑判決を受けたサジダ・リシャウィ死刑囚との交換を模索していたとみられる。

だが、「イスラム国」は今年1月20日、フリージャーナリストの後藤健二さん(47)と会社経営者の湯川遥菜さん(42)の拘束を公表。のちに後藤さんとリシャウィ死刑囚の交換を求め、できない場合は中尉を殺害するとしていた。ヨルダン政府は繰り返し、中尉の生存を証明するよう「イスラム国」側に求めたが、反応はないままだった。

1月3日に殺害されたのが事実とすれば、日本政府やヨルダン政府が対応を急いでいたとき、すでに中尉は死亡していたことになる。訪米中のアブドラ国王は日程を切り上げ、帰国するという。

また、衛星テレビ局アルアラビアなどによると、ヨルダン当局は4日にも、リシャウィ死刑囚を処刑するという。(アンマン=渡辺丘、渡辺淳基)
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▼殺されたのは1月8日だという説もあるが、
どちらでも結論は一緒だ。「イスラーム国」は端(はな)から「交渉」する意思など1ミリも持っていなかったことがよくわかる。

「イスラーム国」関連のニュースについて、本誌の4896人の読者の皆さんに考えてほしいことがある。「イスラーム国」の目的は「恐怖を与える」ことだ。だからぼくは、今後「彼らの編集した映像」は見ない/見せないでほしいと思う。メディア関係で働いている人には、「彼らの映像を想起させる映像」もなるべく報道しないでほしいと望む。

上に引用したような新聞記事などの文字情報を読めば、彼らの主張の内容はわかる。ナチス・ドイツにも比すべき相手の土俵に、わざわざこちらから乗る必要はない。深掘りすべき点は、他にいくらでもある。ぼくはそう思う。

ただし、「イスラーム国」と戦う、ということと、「イスラーム国」が生まれた原因を考える、ということとは別の話だ。だから本誌では、「イスラーム国」が生まれた大きな原因の一つが欧米の傲慢にあることも、書く必要があれば書くだろう。「イスラーム国」の存在に、いわゆる「先進国」は責任がない、などという知的態度のもとから生まれる議論が、これから「イスラーム国」に渡るかもしれない人の心まで届く言葉になるとは、とても思えないからだ。

このテーマについて書く時、本誌では少なくとも三つのことを念頭に置いておきたい。

一つは、いまニッポンに住んでいるムスリムへの暴力やヘイトスピーチを止めること(すでに複数の事件が報道されている)。

二つは、「イスラーム国」へのニッポン人の流入を止めること(これもすでに複数の例が報道されている)。

三つは、マスメディアとのつきあい方を吟味する。これは従来どおり。いっそう重要になることは言わずもがなだろう。

この三つの観点で、共有すべき情報があったら教えてください。


▼後藤健二さんは何故(なぜ)、危険を承知でシリアへ向かったのか。その一点が解(げ)せなかったのだが、「クリスチャントゥデイ」というサイトの記事を読んで納得した。


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イスラム国邦人殺害予告:教会で2人の無事祈る
牧師「平和求める願いは皆同じ」
2015年1月22日19時42分 記者:竹村恭一

イスラム教過激派組織「イスラム国」に拘束されている邦人2人のうちの1人、国際ジャーナリストの後藤健二さんが所属する日本基督教団田園調布教会(東京都大田区)では21日、定例の祈祷会が行われ、拘束されている後藤さんと湯川遥菜(はるな)さんのために祈りがささげられた。
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▼同サイトは昨年9月、後藤さんにインタビューしていた。彼は1990年代の初めにプロテスタントのキリスト教徒になったという。だから冒頭に引用したツイートのなかにある「アラブの兄弟」は、「同じ神を信じる兄弟」という意味だ。以下、インタビューを抜粋。


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すでに、国際ジャーナリストとして駆け出していた彼は、常に「死」と隣り合わせにいた。そのことを不安や恐怖に思わなかったわけではない。紛争地に出向くときは、ほとんど一人で飛行機に乗り、現地で通訳やドライバーなどとチームを組む。しかし、日本から一人で危険地帯に出向き、そこで死を迎えるようなことがあれば・・・。

「もし、取材先で命を落とすようなことがあったとき、誰にも看取られないで死ぬのは寂しいかなとも思いました。天国で父なる主イエス様が迎えてくださるのであれば、寂しくないかな・・・なんて、少々後ろ向きな考えで受洗を決意したのは事実です」と後藤さん。

しかし、当時の牧師に「われわれの信じる神様は、われわれが死ぬときのためにいらっしゃるのではないのですよ」と咎められ、はっとした。それからは、毎日生きていることに感謝し、神様に守られ、今も生きていることに感謝しているという。(中略)

最後に後藤氏は、小さな聖書を差し出してくれた。いつも取材に出かけるときに手放さず持っている聖書だという。十数年前に同教会の牧師から頂いたものだと言い、大切そうにページをめくっていた。そこには、

「神は私を助けてくださる」(詩篇54:6)

という言葉が。「この言葉を、いつも心に刻み込んで、私は仕事をしています。多くの悲惨な現場、命の危険をも脅かす現場もありますが、必ず、どんな方法かはわかりませんが、神様は私を助けてくださるのだと思います」
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▼もう一つ、後藤さんの人間性に触れた記事を紹介しておきたい。日経1面のコラムだ。


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春秋2015/1/25付

「きょうはプレゼントを持ってきました」。差し出されたのはイスラム教徒が祈りのときに用いる数珠だった。場所は東京拘置所の面会室。海賊行為を働き日本で有罪判決を受けたソマリア人の男が向こう側に、こちら側には後藤健二さんがいた。2年前の2月である。

▼当時、はるか遠く、アフリカの東の海であった犯罪を日本で裁くにいたる経緯が話題になったのを記憶する。ソマリアは公用語のソマリ語と日本語との通訳さえ見つからない遠い国だ。その裁判に、後藤さんは自ら現地を取材して集めた資料を証拠として供し、孤独のなかで心を病んだソマリア人を拘置所に見舞っていた。

▼もちろん、海賊行為の悪質さ、野蛮さを憎んでいただろう。一方で、犯罪を生む国の貧困、混乱を理解し、なにより異国の獄中にあるイスラム教徒の心のうちを想像する力があった。
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▼この後藤さんと同じプロテスタントのキリスト教徒である佐藤優氏のコメント、特にその前半が心に沁(し)みた。


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佐藤優氏のコメント 産経新聞 2015.2.3 23:02

後藤健二さんはプロテスタント系のクリスチャンだった。新約聖書には、羊飼いが99匹の羊を残してでも迷える1匹の羊を探しに行く話が紹介されている。

湯川遥菜さんの行動に関してはさまざまな批判があった。でも誰も助けないのはいいのか、それは冷たすぎるのではないか。後藤さんはクリスチャンとして、勝算が限りなくゼロに近くても試してみる価値はあると考えて、「イスラム国」に向かったのだろう。

最後に覚悟を決めた表情をしたのも自分なりの信仰、信念があったからだろう。それに彼は日本人として、最後に見苦しいまねはしなかった。イスラム国に向かう直前には、「何が起こっても、責任は私自身にあります」とメッセージを残した。後藤さんの行動には武士道的な考え方も感じられる。

かつてソ連共産党が結成したコミンテルンは世界中の共産党を支部と位置づけ、全世界で共産主義革命を起こそうとしていた。イスラム国も同じだ。日本にもドイツにも、フランスにもイスラム国の支持者がいる。それが緩やかなネットワークでつながり、それぞれの国内でテロを起こさせ、世界イスラム革命を起こすことが彼らの目的となっている。

日本とイスラム国との戦争はすでに始まっており、敵は日本国内にもいる。昨年にはイスラム国の戦闘員に加わろうとシリア渡航を企てたとして、北海道大学の男子学生らが家宅捜索を受けた。こうした法規違反に関し、日本政府は厳正に対処していくべきだ。

日本国民は勝つか、消し去られるかという戦争をしている。この戦争には勝たないといけない。今回の事件にひるむことなく、中東支援を続け、イスラム国の壊滅に向けた行動を続けていくべきだろう。(談)
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▼後藤さんは、ジャーナリズムの原理で動いたのではなかった。ましてや政治や資本主義の原理で動いたのではなかった。彼は一人の信仰者として命をかける道を選んだ。そして同時に、ジャーナリストとして致命的なミスを犯してしまったのだ。

これだけ常軌を逸した「自己責任論」がかまびすしい社会だから、言わずもがなのことを書くけど、後藤さんを誰が責められようか。

アメリカのオバマ大統領は1月31日、後藤さんについて〈「報道を通じて、勇気を持ってシリアの人々が置かれた苦境を外部の世界に伝えようと勇敢に取り組んだ」と称賛。ヘーゲル米国防長官も同日、「後藤さんは伝えられる必要があることを伝えるため、危険な場所に行った」と評価する声明を出した〉(朝日デジタル 2015年2月2日06時48分)

いっぽうわが国の政治家は、たとえばこんな感じだ。

〈自民党の高村正彦副総裁は4日、記者団に対し、過激派組織「イスラム国」がフリージャーナリスト後藤健二さんを殺害したとされる人質事件について「後藤さんが3度にわたる日本政府の警告にもかかわらずテロリスト支配地域に入ったことは、どんなに使命感があったとしても、蛮勇というべきものであった」と語った。朝日デジタル 2015年2月4日11時48分〉

なんという落差だろう。そして、下記は2日前のぼくのツイート。


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マジで?信じがたい。"@minorucchu: 故・後藤健二さんの母親・石堂順子さんがドイツ最有力誌の単独インタビューに応じた。ドイツ人記者は安倍内閣が現時点まで弔意を示す連絡を母親に入れていない事実に絶句した。 "
6:28 - 2015年2月6日
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ドイツの週刊誌「STERN(シュテルン)」の取材だったようだ。珍しく90以上もリツイートされた。

▼これから本格的な議論が始まる安保法制について、〈菅官房長官は、邦人人質事件に関し「安全保障法制の整備と今回の事案は別問題だ」と述べた〉(共同2015年02月01日)とのこと。しかし現実的に、別モノとして扱われることはないだろうナ。さっそく安倍総理はこの機に乗じて、憲法九条を変える時期を明言したからナ。

反知性主義の特徴は「機を見るに敏」か。

▼ちなみに後藤さんは去年の9月23日のラジオで「イスラーム国」についてのインタビューに答え、以下のようにコメントしている。20分30秒くらいから。

〈日本が「アメリカの空爆を支持する」と、安倍さん(安倍総理)が、例えばこれから国連でやる演説の中で、もうそこまで具体的に言ったりなんかしたら、もう日本も、同じ同盟国と見られて、いろんなところに旅行に今、日本人の方々行ってますけれども、テロとか、誘拐とか、そういうのに気をつけなくちゃいけない。それが一つのバロメーターになると思います〉

哀しいことに、このコメントどおりの悲劇が後藤さんの身に起きてしまった。また、このラジオを聞くと彼が「イスラーム国」の目的は金でも人でもなく「土地」であることを鋭く指摘していたこともわかる。


▼あと四つの声明を紹介したい。

まず、後藤さんの妻が公表した二つの声明。一つは「イスラーム国」から脅迫されて公表したものだ。


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後藤さん妻、解放求める音声メッセージ公開
ヨルダンで12歳まで過ごした妻の望みとは?
Reuters 2015年01月30日

私の名前はリンコです。シリアで捕らえられたジャーナリスト、後藤健二の妻です。彼は2014年10月25日、私の元からいなくなりました。それ以来、私は彼の解放のため、舞台裏で休むことなく働き続けてきました。

私は今まで声明を出すことを避けてきました。なぜならば、健二の苦境に対するメディアの注目が世界中で騒ぎ立てられています。私は自分の子供と家族をそこから守ろうと考えていました。私たち夫婦には、2人の幼い娘がいます。私たちの娘は健二が日本を離れた時には、わずか生後3週間でした。私は、2歳の上の娘が再び父親に会えることを望んでいます。2人の娘が父親のことを知りながら、成長していくことを望んでいます。

私の夫は善良で、正直な人間です。苦しむ人びとの困窮した様子を報じるためにシリアへ向かいました。健二は、湯川遥菜さんの居場所を探し出そうとしていたと推測できます。私は遥菜さんが亡くなったことに、非常に悲しい思いをしました。そして、彼の家族の悲しみを思いました。家族の皆さんがどれだけつらい思いをされているかがわかるからです。

12月2日、健二を拘束したグループからメールを受け取ったとき、健二がトラブルの中にあることを知りました。1月20日、私は湯川遥菜さんと健二の身代金として2億ドルを要求する動画を見ました。それ以来、私とグループとの間でメールを何回かやりとりしました。私は、彼の命を救おうと戦ったのです。

20時間ほど前に、誘拐犯は私に最新の、そして最後の要求と見られる文章を送ってきました。「リンコ、お前はこのメッセージを世界のメディアに対して公表し、広げなければならない。さもなければ、健二が次だ。29日木曜日の日没までに健治と交換するサジダがトルコ国境付近にいなければ、ヨルダン人パイロットを即座に殺すつもりだ」。

これは私の夫にとって最後のチャンスであり、彼の解放と、ムサス・カサスベさんの命を救うには、あと数時間しか残されていないことを心配しています。ヨルダン政府と日本政府の手中に、二人の運命が委ねられていることを考えて欲しいと思います。

同時に、私はヨルダン政府と日本政府のすべての努力に対して感謝しています。ヨルダンと日本の人々から寄せられる同情に対しても感謝しています。私が小さかったころ、私の家族はヨルダンに住んでいました。そのため私は12歳になるまで、(ヨルダンの首都である)アンマンの学校に通っていました。だから、私にはヨルダンとヨルダンの人々に対して、特別な感情を持っており、多くの思い出があります。

最後に、私は、私と娘たちを支えてくれた、私の家族、友人たち、そして健二の同僚に感謝しています。私の夫と、ヨルダン人パイロット、ムアス・カサスベさんの無事を祈っています。リンコ
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▼12歳になるまで、彼女はヨルダンで暮らしていたのだ。こんな偶然があるのだろうか。

そして、夫が殺されたあとのコメント。


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後藤健二さん妻がコメント
「大きな喪失」「夫を誇りに思っています」
クリスチャントゥデイ 2015年2月2日15時25分

イスラム教過激派組織「イスラム国」が後藤健二さんを殺害したとする映像を公開したことを受け、後藤さんの妻は1日、英国のフリージャーナリスト支援団体「ローリー・ペック・トラスト」のウェブサイトで、英文のコメントを発表した。


健二の死の知らせに、私の家族と私は打ちのめされています。彼は、単に私の愛する夫、また私たちの可愛い子どもたちの父親であっただけでなく、世界中の多くの人々にとって、息子であり、兄弟であり、また友でした。

個人的に大きな喪失を感じていますが、イラクやソマリア、シリアといった紛争地域にいる人々の苦悩を伝えてきた夫を大変誇りに思っています。一般の人々への(紛争による)影響に光を当て、とりわけ子どもたちの視点を通して、戦争の悲劇の外にいる私たちへ伝えることに情熱を注いできました。

この困難な数カ月間にわたって、私や私たちの家族を支えてきてくださった皆様に感謝します。

私たちの家族にとって非常に困難な時であることを想像してくださると思います。メディアの皆様には、私たちのプライバシーを尊重し、この喪失を受け入れる時間を私たちに与えてくださるようお願い致します。
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▼これらの文章を読んで、ぼくは涙をおさえられなかった。驚くべき自制心と隙のない知性、そして後藤さんへの愛情があふれている。

そして、親族名で出されたコメントと、殺害後の、後藤さんの母のコメント。


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日本政府及び各国政府並びに国民の皆様へ

この度は、後藤健二が世間をお騒がせすることとなり、大変申し訳ございません。

解放に向けご尽力いただきました日本政府及び各国政府、並び無事解放を願っていただきました国民の皆様に対しまして、親族一同心よりお礼申し上げます。さらに、この間ご支援を頂きました友人の皆様に心より感謝申し上げます。

10月末にシリア国境付近にて消息を絶って以来、私ども家族は無事の帰国を祈ってまいりましたが、このような結果となり痛恨の極みであり、悲しみに打ちひしがれております。

ジャーナリストという職業柄、危険な地域の取材に出かけることも多く、万一の場合の覚悟はしてきたつもりでおりましたが、大切な家族を失い、この喪失感を受け入れなければならない塗炭の苦しみの中にあります。

最後に、親族一同の願いとしましては、後藤健二の御霊の安らぎを願うとともに、幼い子供たちとともに心静かな生活を送って参りたいと思っておりますので、ご理解とご高配を賜れれば幸いです。

後藤健二 親族一同
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健二は旅立ってしまいました。あまりにも無念な死を前に、言葉が見つかりません。今はただ、悲しみで涙するのみです。しかし、その悲しみが「憎悪の連鎖」となってはならないと信じます。「戦争のない社会を作りたい」「戦争と貧困から子どもたちのいのちを救いたい」との健二の遺志を私たちが引き継いでいくことを切に願っています。
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▼これも、とくに親族コメントの冒頭を読んで胸が苦しくなり、泣けて仕方なかった。なぜ、謝らねばならないのか。「謝らなければ攻撃される」からだ。後藤さんの遺族にそう感じさせる圧力があるからだ。「自己責任」というひどい言葉に象徴される、この極めて内向きで攻撃的な国民性を変えなければならない。しかし島国根性の負の特徴は簡単には変わらないだろう。


▼後藤健二さんと湯川遥菜さんのご冥福を祈ります。


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2015年1月28日水曜日

ロレッタ・ナポリオーニ『イスラム国』

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結果がどうなるにせよ、外国の軍事介入が中東の不安定化の解決にならないことははっきりしている。これまでにも解決できなかったし、これからもできまい。

したがって、これ以上の犠牲や破壊を食い止めるためには、より現実的なアプローチが必要になる。その際には、この地域に新しいパワーが存在することをまず認識し、代理戦争は結局ブーメランのように我が身に跳ね返って来るだけであることを理解しなければならない。

この新しいパワーに対抗するには、戦争以外の手段を模索すべきである。

ロレッタ・ナポリオーニ
『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』
文藝春秋、168頁、村井章子訳
2015年1月10日 第1刷
原著
THE ISLAMIST PHOENIX
The Islamic State and the Redrawing of the Middle East
(2014)
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【PUBLICITY 1962】2015年1月28日(水)
■ロレッタ・ナポリオーニ『イスラム国』■
freespeech21@yahoo.co.jp

▼せっかくメールをいただいている方、ごめんなさいね。『国家と秘密』の紹介も一回飛ばして、今号はこの本を紹介する。

ロレッタ・ナポリオーニ『イスラム国』文藝春秋

編集者がドイツのブックフェアで見つけて素早く翻訳したというウワサを耳にした。イスラーム国に興味のある人(ということは2015年1月20日以降の日本人ほとんど全員)に強くオススメする。『国家と秘密』は2014年の年末に熟読すべき名著だったが、『イスラム国』は2015年の1月、たった今、熟読玩味すべき一冊だ。ぼくのツイッター @offnote_ をフォローしてくれている人はすでにご存知だろうが、ナポリオーニ氏はツイッターもやっている。 @l_napoleoni 真っ当な指摘が多いです。

▼イラク戦争の時、ぼくは本誌のアタマに「ニッポン、戦争中」等と掲げて何通も発信したが、2015年の今もニッポンは戦争中である。そう認識したほうが、誰が眠たいことを言っていて、誰が鋭いことを言っているのか、いろいろとわかりやすくなると思う。

安倍政権は今年、安保法制をどうこうしようとしているが、ニッポンの外で、安倍総理や官僚たちはただ翻弄されるしかない、はるかに大きな波がうねっているのではないだろうか。

▼「イスラーム国」による二邦人の人質事件について、最新ニュースを確かめておこう。

〈後藤さん不明、昨年11月に把握 首相、答弁で明かす
2015年1月27日20時59分 朝日新聞デジタル

過激派組織「イスラム国」に拘束されているフリージャーナリスト後藤健二さん(47)について、安倍晋三首相は27日の衆院本会議での代表質問に答え、「昨年11月に行方不明事案の発生を把握した直後に、官邸に(情報)連絡室、外務省に対策室を立ち上げ、ヨルダンに現地対策本部を立ち上げた」と述べた。「イスラム国」が後藤さんの拘束をインターネット上で告知する約2カ月前から、政府が対応に動いていたことが明らかになった。

政府は昨年8月16、17日に、「イスラム国」による会社経営者湯川遥菜(はるな)さん(42)の拘束事件のために情報連絡室などを設置した。菅義偉官房長官は27日の会見で、後藤さんの事件について、いずれも昨年11月1日付で、湯川さんの事件で設けた情報連絡室の対象に追加するなどしたと説明。後藤さんの行方不明を把握しながら水面下で対応していたことについて「事案の性質上、非公表とした」と説明した。

政府高官は27日、後藤さんを11月の時点で政府対応の対象とした理由について「(後藤さんが)音信不通で行方不明と判断した」と語った。ただ、その際には後藤さんが拘束されたとの情報は得られていなかったという。

首相は答弁で、昨年8月に拘束された湯川さんと、その後に現地入りしたとみられる後藤さんの消息を確認するため、「あらゆるルートを通じて情報収集や協力要請を行ってきた」と経緯を説明。「極めて厳しい状況だが、後藤さんの早期解放に向けて全力を尽くす」と語った。〉


〈湯川さん「殺害」のネット画像 政府、公開前に把握
2015年1月27日05時03分 朝日新聞デジタル

過激派組織「イスラム国」による人質事件で、日本政府は24日深夜にインターネット上に公開された拘束中のフリージャーナリスト後藤健二さん(47)の画像について、公開されるよりもかなり早い段階で把握し、音声の内容もつかんでいたことが政府関係者への取材でわかった。

政府はこれまで、24日午後11時過ぎにネット上に公開された画像を把握したとしていた。画像の後藤さんは手に写真を持っており、写真の中には千葉市出身の会社経営者湯川遥菜(はるな)さん(42)が殺害されたとみられる様子が写っていた。また画像には音声があり、後藤さんを名乗る男性の声で、「イスラム国」の要求が身代金からヨルダンで収監されているサジダ・リシャウィ死刑囚の釈放に変わったことを告げていた。

政府関係者によると、政府は画像を分析し、信憑(しんぴょう)性が高いと判断。安倍晋三首相はこの画像の情報を踏まえ、24日午後5時半すぎ、ヨルダンのアブドラ国王との電話協議の際に、「イスラム国」の要求が女性死刑囚の釈放に変更されたことを国王に伝えたという。この電話協議について、日本政府は約20分間という協議時間と同席者の名前以外は一切公表していない。〉

ちなみに身代金の額は2億ドルだった。映像が公開されるはるか前から事件は進んでいたわけだ。

▼そのうえで、『イスラム国』から現時点で重要だと思った箇所を三つ引用したい。まず一つめが冒頭のくだり。本書の結論である。続きをもう少し。


「アラブの春」の失敗。「イスラム国」の成功。これ以外に、第三の道はありうるのだろうか。答はイエスだ。第三の道には、教育、知識、そして変化の速い政治環境に対する深い理解を必要とする。〉(170頁)

▼二つめは、アメリカとイギリスの国策について。ここ数日ですでに各種報道に触れて、ぼくたちは散々思い知ったわけだが、さらに突っ込んで分析されている。適宜【】をつけた。

人質解放のために交渉はしないというアメリカとイギリスの方針により、英米人は誘拐されたら斬首されることを知っている。ジハード戦士のチャットルームやツイッターのメッセージを見ると、「イスラム国」の同調者の間では、この方針は英米国民の恐怖心を煽る戦略だと考えられているらしい。「イスラム国」に対する恐怖がつのるほど、軍事介入に広く支持を得る政治環境が整うからだ。

ちょうど二〇〇三年のイラク侵攻のときと同じである。

ただし今回の目的は、【侵攻ではない】。中東における欧米の同盟国、とりわけサウジアラビアを始めとする湾岸諸国を、カリフ制国家の革命的なメッセージから【守ることにある】。放置しておいたら、カリフ制国家はほんとうにこれらの同盟国の内部で革命を引き起こしかねない。〉(128頁)

つまり、日本が追従している米英の国策は、イラク戦争時と変わっていないのだが、その意味が「攻め」から「守り」へ変わっているというのだ。

▼そして三つめ。【本質は宗教戦争ではなく、現実的な政治戦争だ】という指摘だ。()は引用者。

じつに理解しがたいことだが、欧米の大国は、中東で繰り広げられているのはあくまで宗教戦争であって、その発端は七世紀アラビアの宗教的確執にあると信じ込んだのである。しかし、似たような紛争がキリスト教徒の間で起きた場合、その原因を宗教に求めることはめったにない。まず必ず、政治的要因を探すはずだ。

(中略)今日、(イスラーム国などのスンニ派から)シーア派に対して行われる背教者宣告は、イラク、シリア、さらには他の地域で内戦状態を引き起こすことを目的とする。なるほど一見すると、宗教を理由とする戦いであって、政治的・経済的権益とは無縁であるように見えるかもしれない。しかし一五世紀のヨーロッパと同じく、真の動機は政治的・経済的なものであり、そのルーツはこの地域の権力抗争にある。

(中略)一言で言えば、シーア派の抹殺は、政治・経済の両面でカリフ制国家の運営を容易にすると同時に、スンニ派の間にわだかまる復讐心を満足させ、新しい国への忠誠をいっそう強めることになるのである。〉(151頁)

▼本書をよく読むと、イスラーム国がシーア派とスンニ派とを分断し、「ナショナリズム」を煽ることによって勢力を広げたことが納得できる(48頁、50頁)。

おそらく最も読者の表情をこわばらせるのはイスラエルとイスラム国との対比だろう。29頁、80頁、88頁に書いてある。

イスラーム国が拡大した原因については、国連安保理の機能不全(112頁、157頁)、代理戦争の仕組み(67頁~72頁)、宗教の悪用(118頁、126頁)などが細かく論じられている。

それぞれ細かく紹介したいが、数年前のようにたくさん書く余裕がないもんでネ。「読みたいけれど1458円がない」という人は近所の図書館で借りてください。


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2015年1月17日土曜日

『国家と秘密』を読む~実害編その2


マラーやデムーランの監督下では、咬みつきたがる獰猛な番犬だった新聞も、 
これはしたり! 嬉々として尾(しっぽ)を振りながら、 
彼の足もとにじゃれついてくるではないか。 
新聞だって鞭をくらうよりも、ビスケットを食うほうが好きなのだ。

ツワイク『ジョゼフ・フーシェ』岩波文庫、144頁、高橋禎二・秋山英夫訳



【PUBLICITY 1961】2015年1月17日(土)
■『国家と秘密』~実害編その2■
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▼『国家と秘密』(集英社新書)に列挙された「公文書隠しの実害」の歴史を続ける前に、毎日新聞の良記事を紹介しよう。大阪社会部の日下部聡記者が1月8日付で書いた記事。キーワードは

〈「どうなる」ではなく「どうする」〉

▼前号でぼくは、『国家と秘密』から

〈そもそも犯されるというに足るほどの知る権利を、戦後日本の国民は、持っていたのでしょうか?〉(13頁)

という強烈なライトモティーフ=Leitmotivを引用した。ただしもちろん、知る権利はわずかかもしれないが「ゼロ」ではないし、そのゼロではないものを広げる努力に価値はある。

〈(戦後日本の情報公開や司法のチェックが)十分に機能しているかどうかは議論の余地がある。しかし、戦前になかった多くの民主的な制度を私たちが手にしているのは事実だ。

日下部記者はこの「事実」を地道に示してきた優れた新聞記者の一人だ。〈情報公開法に基づき、私は特定秘密保護法案の検討過程の記録を開示請求した。段ボール箱約20個分もの文書が届いた。黒塗りもあったが、分かったことも多かった。▽内閣法制局が当初、必要性に疑問を呈していた▽原案を作った内閣情報調査室は、法が国民の基本的人権を侵害する危険性を認識していた――などと記事にした。〉

▼また、ある警察庁幹部からは、匿名ながら次のコメントを聞き出している。

「今は公開できない情報も、後世の人々には記録として残していく必要があると思うのですが」という質問に対し、

「それはそう思いますよ」「外国から情報を受け取るために、法が必要なのは確かです。しかし、実務上はこれまでも特に困ったことはない。個人的には、罰するのは公務員側だけにするとか、もう少し絞った法律でもよかったと思う」

▼もう一つ、特定秘密保護法に反対し、成立後は同法の運用基準をつくる諮問会議委員になった清水勉弁護士のコメントも印象深い。

〈反対派からは「取り込まれた」と非難する声も上がった。しかし、清水氏は言う。「『成立したら負け』ではないのです。できてしまった以上、少しでもまともな法律にするにはどうするかを考え続けなければならない」

まったくそのとおりだ。〈運用基準には清水氏の意見も一定程度反映された。諮問会議は今後も年1回、法の運用状況に意見を述べる。〉

記事の末尾は〈特定秘密だけに目を奪われることなく、あらゆる非公開情報に民主的なコントロールの仕組みを埋め込んでいかなければならない。情報管理の基礎となる公文書管理法の充実も重要だ。主権者である私たちは、「どうなる」ではなく「どうする」を考えたい。〉と結ばれている。完全に同意である。

新聞記者は自らすすんで権力の鞭をくらう必要はない。と同時に、すすんでビスケットを食らう必要もない。しかし、あちらでもこちらでもビスケットをくわえ始めた時、くわえないだけで同調圧力にさらされるきらいが、ニッポン社会には強い。「知る権利」を押し広げるスピードは、まるでカタツムリのようだ。



▼さて、公文書隠しの実害編を続けよう。

公文書を焼いて、隠したおかげで、どえらいこともしでかすことができた。「東京裁判」である。とにかく文書=証拠が消えたわけで、〈日本側は尋問などに積極的に協力することで、判の方向づけにかなりの影響力を及ぼすことができたのです〉(36頁)

▼また、〈日本近現代政治史研究者の世界では、

公文書には重要資料はろくに残っていない。遺族の元をまわって私文書を収集する方が重要

という認識が「常識」ですらあった〉という。(37頁)

たとえば、わが日本では〈海軍の最高機密文書が一財団法人の手によって保管されていた〉(35頁)ことをご存知だろうか。ちなみにこの文書は海軍の最高統帥命令である「大海令」だ。

▼〈(敗戦までの)官僚たちは、「天皇の官吏」であり、国民に対する説明責任を負っていませんでした。〉(42頁)。

そして敗戦後もいわゆる「縦割り行政」の仕組みは残り、

法は変われど、行政法は変わらず

と相成った(50頁)。さらに後年、行政管理庁が進めた文書の廃棄によって

〈「戦前の方がまだ公文書は残っている。戦後の方が残り方は酷い

という話を色々なところで耳にします〉(55頁)などという事態が進んだ。国立公文書館は独立行政法人と化した。つまり国の機関ですらなくなった(80頁)。

▼『国家と秘密』には、公文書隠しにまつわる有名な事件も続々と紹介されている。

1995年。高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れで燃えた時、〈動力炉・核燃料開発事業団が事故直後の映像を編集して公開し、事故を小さく見せようとしたことが発覚。〉(73頁)

1996年。〈薬害エイズ問題に関する重要な資料が「発見」され、菅直人厚相がそれを公開して謝罪する事件がありました。〉(同頁)

同じころ、「住専=住宅金融専門会社」の不良債権処理(なつかしいなあ)が大問題になっていた。〈大蔵省が過去に行った住専への検査結果を「守秘義務」を名目に隠そうとしたことも注目されました。〉(同頁)

2007年の「消えた年金問題」も、要するに〈公文書管理がずさんであったが故に〉起きた問題だった。(86頁)

C型ウイルス感染」もあった。文書管理のずさんさが、国民に実害を与える(87頁)典型例なので、少し長いが引用しておく。

〈二〇〇二年にフィブリノゲン製剤の投与によるC型肝炎ウイルス感染についての報告書を作成した際、患者名が記載されていた症例一覧表を入手していたにもかかわらず、本人へ罹患を告知しなかったことが二〇〇七年に発覚したのです。このため厚労省は、故意に事実を隠した疑いがもたれました。

この批判を受けて、厚労省は調査チームを立ち上げました。その調査の結果、放置された理由の一つとして、「倉庫内の文書の保管や管理は極めて不十分で、文書管理に組織としての問題があった」ことが挙げられました。放置された資料が保管されていた地下倉庫は、「どの書棚にどの書類がある」かが系統立てて整理されておらず、文書ファイルの背表紙に件名が記載されていない、ダンボールに入れられて文書が放置されているなど、まともな管理がなされていない状態にあったのです。この結果、重要な文書が見つけられずに放置されたのです。〉(同頁)

▼実害編、もうちょっと続く。


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竹山綴労


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