【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2014年1月7日火曜日

【読者の物語】 サッチャー論 2014年1月7日

【PUBLICITY 1954】2014年1月7日(火)
読者の物語 サッチャー論 ロンドンのみどりさんから

▼最近イギリスの大学生が下院議員におこなったアンケートで、「最良の首相」にサッチャーが選ばれたらしい。以下、讀賣の記事を要約。


【ロンドン=佐藤昌宏】ロンドン大学の学生らが第2次世界大戦後の12人の英首相(現職のキャメロン氏を除く)について、英下院議員にアンケート調査を行ったところ、昨年死去したマーガレット・サッチャー氏(保守党)が「最良の首相」に選ばれた。大胆な民営化など決断力が評価された。
2位は、国民保険サービスなどを導入して福祉国家を確立した、 戦後最初の首相クレメント・アトリー(労働党) 3位には1997年から10年にわたる長期政権を築いたトニー・ブレア氏(同)4位はウィンストン・チャーチル(保守党)
調査は昨年11、12月に行われ、下院議員158人から回答を得た。回答者の党派別内訳は、与党第1党・保守党約44%、同第2党・自由民主党約9%、最大野党・労働党約42%、その他約5%だった。(2014年1月5日21時22分 読売新聞)

▼1位のサッチャーと2位のアトリーは僅差だったらしい。

▼昨年、ロンドンのみどりさんからいただいたサッチャー関連のメールを2通、抜粋転載しておく。 次号以降、みどりさんのブログ「ロンドンSW19から」の気に入った部分を抜粋してみよう。

▼こういう良質な時事評論が、インターネットの時代になって増えているのか減っているのかわからない。おそらく増えているのだろうが、その何倍もの勢いで、そうでないものも増えているから、探し出すのが億劫だ。



サッチャー死亡の際にちょこっと書きました。労働条件の過酷化はサッチャー&レーガンの「小さな政府」から始まっていることがわかるかと思います(これを、よせばいいのに周回遅れで実施したのが小泉の雇用改革)。サッチャリズムの掛け声の一つは「ヴィクトリア時代に還れ」 だったんですが、労働条件までヴィクトリア時代にかえっちゃったってことかもしれません。
サッチャーがフェミニストだって!?
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/355880754.html
サッチャリズムが生んだイングランド暴動
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/355879414.html
サッチャーのfactチェック--金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏に
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/356351932.html
ではまた。 みどり

▼もう一通。


ヘレン・ミレンが「クイーン」になる前にIRA殉教者(ハン ガーストライカー)の母(息子の思いを裏切ってかれの命を救 う母)を演じていたのは特筆に値すると思います。西欧の女優は、乳房切除のアンジーもそうですが、自分の声の大きさを政治へのコミットメントに利用することをためらいませんね。 
▼今年(=2013年、竹山註)は、イギリスの女性参政権運 動のなかでハイライトとも言えるエミリー・ディヴィッドソンの「殉教」100周年で、サフラジェットに関するドキュメンタリーの放映や書籍の刊行が相次いでいます。サッチャーの活躍もこれがあればこそと思うと複雑ですけど。
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/154102817.html
日本もひどいことになっているようですが、保守党ぼっちゃん政権下のイギリスも「わや」です。


▼上のメールをいただいた頃から、ニッポンはまた随分ひどくなっているから、ニッポンでもどこかの大学生が同じ試みをしたら面白い結果が出るだろうね。


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2014年1月1日水曜日

相対化する力/2014年1月1日

▼2014年の元日の新聞で、興味深かったのは、琉球新報の「辺野古移設に関する米専門家の声」だ。2010年から2013年にかけて、「辺野古移設、マズイっしょ」とか「必要ねえんじゃね?」的な12人+2文書のコメント、考察、批判を一覧表にした記事だ。

カート・キャンベル、ランド研究所、上院軍事委員長、ジョセフ・ナイ、ジェラルド・カーティス、アーミテージなどなど。豪華な面々である。

こういう事実の列挙を目にすると、これまで本土のマスメディアは、いったい何を報道してきたのだろう、と首を傾げてしまう。

▼この日の琉球新報1面トップは、1968年から69年まで、嘉手納基地の弾薬庫内で枯れ葉剤が定期的に散布されていた、という元アメリカ兵証言である(島袋良太記者)。その弾薬庫の近くには軍用犬の訓練場があり、1968-73年の軍用犬の腫瘍発生率は、ベトナムの倍だったそうだ。新年号にふさわしい内容だ。

記事には地図がついていて、その弾薬庫地区や元軍用犬訓練場のすぐそばを、比謝川(ひじゃがわ)が流れ、西が読谷村、南が嘉手納町。陸上競技場や「道の駅かでな」も、すぐ近くにある。

▼ほかにも、東京新聞1面トップの「東京電力が免税国オランダを活用して税金を逃れ、海外に210億円蓄財している」という報道や(桐山純平記者。この記事は、東日本大震災の被災者が仮設住宅で一人暮らししている写真と組み合わせたレイアウト)、

朝日新聞の「第一次世界大戦」考(近藤慶太郎記者/ドイツとフランスの共同教科書=剣持久木コメント、山田慶兒『海路としての尖閣諸島』紹介)に、ニッポン社会を覆いつつある空気を【相対化する力】を感じる。

安倍総理の靖国神社参拝を重ねて批判した、アメリカ国務省の「『失望』の意味は明確」というコメントを紹介した記事(東京新聞)も然り。

▼こういった報道は、いわば「1日だけのベストセラー」であり、すぐに忘れられてしまう。そもそも、県紙の良質な報道は広く流通しない。そして、良質な報道を「ほめる文化」が、ニッポン社会には乏しいと感じるわけさ。だから、いい報道は、ドシドシほめようと思う。

▼物事を「時をおいてながめる」には、ふだん使わない努力を要する。それは「反射」とは異質の力だ。コーヒーやジンジャーエールを飲みながら、うんうんと唸る力だ。

論理だけでもない、感情だけでもない、生活の底に根ざした言論こそが、客観報道の呪縛を破る力になるのではないだろうか。