【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2015年9月28日月曜日

「NHK出版新書 特別編集号!」はスゴイ


【メディア草紙】1980 2015年9月28日(月)
■「NHK出版新書 特別編集号!」はスゴイ■


▼神保町の東京堂書店に行くと、楽しみなのが3階のアウトレット棚だ。アウトレットといえば、なんといっても三省堂書店の2階が有名で、とにかく量が多く、充実している。古本みたいだが、古本じゃない。すぐ隣の喫茶店でコーヒーを飲みながら、アウトレットの棚を眺めてニヤニヤするのがぼくのリラックスタイムだ。ほとんどそんな機会はないけど。

取引先が重なっているからなのだろうか(八木書店とか?)、三省堂と東京堂とのアウトレット棚には同じ本がけっこう置いてあるのだが、三省堂のほうがお値段は割高。東京堂のほうが、品揃えが少ないが、少し値段が安い。たとえば河出の『性風俗史年表』全3巻は、先週末の時点で、東京堂の3階は4000円、三省堂の2階は5400円だった。

数年前、ぼくは東京堂書店のアウトレットで初めて文豪・北大路公子先生の『生きていてもいいかしら日記』(毎日新聞社)を買った。たまたま手に取り、たまたま開いた頁に載っていた「乳の立場がない」を読んだ時の衝撃は忘れられない。のちに全著作を買い揃えました。(念の為、北大路先生のエッセイを電車内で読むと大変な目に遭うので要注意)

▼三省堂のいいところは、「文庫新刊ラインアップ」が無料で置いていることだ。(もちろん、他の本屋でも同趣旨のプリントを配布している本屋がありますよ) 10月期の分を眺めていると、『服従』が話題のミシェル・ウエルベックの『地図と領土』がちくま文庫で、『プラットフォーム』が河出文庫で相次いで出ることがわかる。岩波現代文庫からは和田洋一著『新島襄』が出る。

ライトノベルの一覧からは、想像を絶するタイトルを探すのが好きだ。10月期はキルタイムコミュニケーションという会社の二次元ドリーム文庫から、『わたしのおっぱい育ててよ! 幼馴染みとお嬢様の育乳バトル』というタイトルの文庫本が出るらしい。先日は『タヌキが嫁ちゃん。』という背表紙を見て目が点になった。最近の小説のタイトルからは、ニッポン語の奥深さを知ることができる。


▼さて。先日、東京堂書店で思わぬ掘り出し物を見つけた。じつは東京堂だけでなく、他の幾つかの大型書店でも同じものを見つけた。

本屋には、よく無料の小冊子やチラシが置いてある。ほんとはだいたい無料じゃないけど(裏に100円とか200円とか表示してある)、本屋に来た客が手に取る時には、無料になっている、あの不思議なサービスだ。ニッポン独特のシステムなのだろうか。

で、なかには正真正銘「0円」と表記してある小冊子がある。しかも、ごくたまに破格の質と量を誇る冊子がある。それが「NHK出版新書 特別編集号!」だ。

要するにNHK新書の広告なのだが、掲載されている18人の原稿は、どうやらすべて、この無料小冊子のための書き下ろしっぽい。しかも驚くべき質の良さだった。挙げていくとキリがないので、「マスメディアとつきあう方法」の角度で、4人だけ紹介しよう。いや、5人。適宜▼

▼まず、いい新書をつくるアイデアを2つ、惜しみなく披露しちゃってるのが斎藤環氏の「教養主義の復権」。若手の発掘方法と、翻訳出版のススメだ。


――――――――――
〈▼最近の若い学者は、デビューのパターンがかなり共通している。まず最初に重厚長大な博士論文をリライトして単行本として出版する。ついで、少しカジュアルな装いの一般向けの本を出して知名度を上げる。この「一般枠」で新書が選ばれることが多い。私自身、最初の著作『文脈病』(青土社)に続けてPHP新書から『社会的ひきこもり』を出版し、これが幸い広く読まれたため「ひきこもりの斎藤」という認知が広がった経緯がある。

こういう「青田買い」には困難な面もあろうが、ぜひ積極的にやってほしい。国会図書館には、日の目を見ることなく眠っている膨大な博士論文、修士論文が所蔵されている。興味深いテーマを発掘して、書き手にコンタクトを取り、新書の著者に育て上げるのは、新書編集者の醍醐味と言えるのではないだろうか。(中略)

▼書籍の翻訳は当然、原著書に印税を支払う必要がある。しかし原著論文に関しては、基本的に「買い取り」である。要するに、一度交渉が成立して論文を買い取ってしまえば、その翻訳がどれほど売れても原著者に印税を支払う必要はないのである。

そこで私が提案したいのは、注目されている学者の原著論文を二、三本買い取り、専門の研究者にわかりやすい翻訳をさせて、これに長めの解説を加えるという企画だ。原著論文など一般向けには難解すぎるとの懸念もあろうが、訳文の工夫と注釈次第でなんとでもなるし、分量的にはこれで新書一冊分くらいにはなるだろう。

論文の選択については、サンデルやピケティのようにすでに広く読まれている著者のものでも良いし、私の専門で言えば精神科医のナシア・ガミーやマーカス・E・レイクル(「デフォルトモード・ネットワーク」の提唱者〉らの原著論文などはぜひ日本語でも読んでみたい。もちろん、翻訳は出版されていないが興味深い主張をしている学者(TEDなどで人気があるような)の論文を紹介するという形でも良い。〉
――――――――――


▼太っ腹な文章だ。もはやNHK新書の宣伝でもなんでもなくて、むしろ他社に塩を送っている。この二つのアイデア、方法論は簡単だし、真面目に探したらダイヤモンドの原石がたくさん見つかるんじゃないの?

ぼくは博士論文や原著論文のなかから、「死生学」の最新動向についてまとめた新書が読みたい。ニッポン社会は「死者との対話」というメディアを失って久しいということに、2011年3月11日以降、ぼくは気づかざるを得なかった。そして新しいメディアは、すでに世知に長けた「学」閥や「財」閥の枠からは生まれにくいだろうとも感じる。

斎藤氏が提唱する博士論文や修士論文の青田買いからは、既存の学閥や財閥に絡め取られ、窒息する前の、イキのいい思考が見つかるだろうし、日本語以外の原著論文からは、「ニッポンの生と死」そのものを相対化する力作が見つかるだろう。「TED新書」とか、安上がりでいいんじゃない?


▼次に、科学者によるプレスリリースの「メガ盛り」問題に言及した八代嘉美氏「マッチとポンプ」


――――――――――
〈(ある学術論文で)イギリスのグループが、研究機関が報道各社に出している研究成果の「プレスリリース」と報道内容との対比を通して、研究成果が誇張されていた記事はどの段階でおかしくなったのか? という検証をしています。この論文では、「動物実験で成功した成果がすぐに人間の臨床応用につながる」といった短絡的な記事や、「因果」と「相関」をごっちゃにしているような記事、あるいは読者に生活習慣を早急に変えることを迫るような記事を取り上げています。

ただ、その誇張は記事になる段階ではなく、大半がプレスリリース自体、つまり研究者サイドが発信する段階ですでに誇張されていた、ということを指摘しました。反面、プレスリリースが抑制的な場合は、記事での誇張もほとんど見られなかったそうです。

もちろん、この研究論文一本でこれまですべてのプレスリリースの方法が間違っていたと言えるわけではありません。しかし、「だからマスコミは……」と断じてしまえるほど、間違いの所在がシンプルではないということも浮かび上がるのです。研究者側にも責任の一端があるかもしれないことは、頭に入れておいてもよいでしょう。〉
――――――――――


▼マスメディアがミスる原因は、メディアの中だけにあるのではない、プレスリリースもまたメディアなり、というわけだ。たしかに、プレスリリースで煽ったり盛ったりしていて、報道した側があとから「やられた!」とうめいても後の祭りですね。

しかもこれは、マスメディア業界の内部の人々でしかわからない生態学だろうナ。ぼくはプレスリリースと記事とをみくらべることってまずないし、というかそもそもプレスリリースというものを目にしたことがほとんどない。

ただし、役所やNGOのいろんな調査結果、アンケート結果をもとにつくられているニュースなら、インターネットでネタ元を見つけて、興味関心に従って各紙記事とみくらべる、といった作業は、そんなに難しくはない。一億総メディア化時代の今、優れた「メディア論」「編集論」がますます求められる。


▼3人目。プロフィギュアスケーターの鈴木明子氏「トリプルアクセルだけがすべてじゃない」。これはたった一文、〈「わかりやすさ」が先に立つメディアでは、本音をお伝えするのはむずかしいことです〉。

氷の上の演技とは関係のない、「摂食障害から見事に復帰した鈴木明子」というレッテル貼りに不満を感じた鈴木氏は、「こっち」と「あっち」との落差を冷静に見つめることによって、「わかりやすさ」というお化けを相対化する力を鍛えたように見受けられる。そのいっぽうで、もともとの教育(学校も家庭も)が素晴らしかったからこそ、のようにも感じられる。こうした当事者発の言葉が増えれば、それらのなかから、メディア・リテラシーというわかりにくい言葉に替わる言葉が見つかるかもしれない。


▼4人目。『永続敗戦論』の白井聡氏「新安保法制の背後に何があるのか?」。白井氏は、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)が2012年に発表した「第三次アーミテージ・リポート」と、ヘリテージ財団研究員ブルース・クリングナー氏の論文を紹介し、現下のニッポンに足りない力を指摘する。文中傍点を【】に。


――――――――――
〈状況は、いかなる考察も不要であるほどクリアである。「日本は一流国であり続けたいのか、それとも二流国へと没落するつもりなのか」(アーミテージ・リポート)、すなわち、「一流国」であり続けたいのならば、原発を続けろ、TPPにも入れ、専守防衛などやめてアメリカの戦争を手伝え、という強烈な恫喝が発せられ、それに「粛々と」従う形で、今日の政策が強行されているわけである。

ここで注意すべきは、こうした対日要求が前代未聞の新しさを含んでいるわけではない、ということだ。(中略)これは、冷戦時代、特にベトナム戦争以降アメリカの威信に翳(かげ)りがさすなかで唱えられ始めた「安保タダ乗り」論の最新版なのである。

してみれば、提出されるべき問いとは、今日21世紀に入って、【なぜこうした要求を拒む力が急速に衰えたのか】、という問題である。同様の傾向は、小泉構造改革の際に背景として注目を浴びた「年次改革要望書」等にも当てはまるはずだ。

真っ先に指摘されるべき事情は、冷戦構造の終焉である。ソ連を共通敵として名指すという状況がある限り、「タダ乗り批判」も一定の限度を越えることはなかった。しかし、冷戦構造の崩壊は、アメリカにとっての日本の位置づけを根本的に変えた。すなわち、庇護・互恵の対象から収奪の対象へと変化したのである。

これに対して日本の政界は、選挙制度変更による「政権交代可能な二大政党制の確立」を標榜しながら、迷走を続けてきた。しかし、その過程が明らかにした事実がある。それはすなわち、政権交代は理論的にのみ可能である、という事実にほかならない。つまり、冷戦という大局的な構造が消えたとき、日本の議会制民主主義もまた崩壊へと歩み始めた。なぜ、そうなったのか、何が足りなかったのか、政界は何をすべきなのか。これらの問いに答えるためには、敗戦直後にまで遡り、現在に至る政治構造の問題点を浮き彫りにするとともに、特に55年体制の崩壊の意味を見極めなければならない。それが次の課題である。〉
――――――――――


▼誰かに「忖度の歴史」とか出してほしいね。

安全保障政策について、ニッポンの側がものすごい忖度(そんたく)をしているわけだが、時のアメリカ政府本体が要求しているわけではない、とぼくは思う。そんなコメントは見たことも聞いたこともないからだ。

読売然り、産経然り、アメリカ政府の意思を体現しているわけでもないアーミテージレポートなどを使い、「アメリカの意向を忖度する」というかたちをとって、己の権力=権限を増やし、己のお金=利権を増やし、己の誇り=自意識を満足させ、要するに「得をする」輩たちがいてそのグループに乗っかることで得をする輩たちがいて、彼らの暴走を誰も止めることができない、という構図ではないだろうか。アメリカ政府も、べつに自分たちの損になる話ではないから、その動きを止めることはないし、歓迎のコメントを出す。

断続的に15年ほどメルマガを出してきたが、「中立」とか「不偏不党」とか呼ばれるニッポンのマスメディアの報道形式は、こうした「過剰忖度の構図」そのものについては大概「われ関せず」である。「大きな構図」に目を向けるためには、ニッポンのマスメディアが採用している報道形式は不向きなのかもしれない。

短期的な「事実」に「正確」に対応し続けることによって、長期的な問題に対応できているわけでは必ずしもない。ここらへんの生態学を探ったメディア研究を、新書でバシバシ出してほしいものだ。


▼最後に、巻頭言の佐藤優氏「反知性主義への砦として」


――――――――――
〈日本の政治エリートに反知性主義的機運が蔓延している。ここで言う反知性主義とは、客観性や実証性を軽視もしくは無視して、自らが欲するように世界を理解する態度を意味する。物事の正否を判断する基準として、合理性や客観性でなく、「絆」や「勢い」などの情緒的言葉、個人的関係などが重視される。

難関大学を卒業し、司法試験や公認会計士試験、国家公務員総合職試験などの競争試験の勝者であっても、反知性主義を基盤にした方が政治権力に近づくことができる状況では、反知性主義に傾く。そして、エリートが政治目的で、芸術や文化を操作することができるというナチズムやスターリニズムに親和的な発想を抱くようになる。

こういう時代の雰囲気は、出版界にも伝播しやすい。隣国の名に「嫌」「悪」「恥」「沈」などの否定的な接頭辞をつける排外主義本、その裏返しである日本礼賛本などが市場に溢れている。資本主義社会において、合法的な金儲けを否定することはできない。「悪貨が良貨を駆逐する」というグレシャムの法則が出版界においても、短期的には適用されるのであろう。〉
――――――――――


▼反知性主義の雰囲気をあらわす術語には「ニヒリズム」も加わるだろう。「絆」や「勢い」は、ニヒリズムを避けるための知恵にもなりうる。しかし、それだけでは足りない。どうしても、幾許(いくばく)かの「論理」が必要になる。その論理は、ありとあらゆる学問領域から援用できるし、援用すべきだ。

ざっとエッセンスを紹介したが、これらの論考の載った小冊子が、大きな本屋に行くと無料で置いてあるわけだ(もうなくなったかナ?)。読まない手はねえですよ。

ということで、リアル書店に行くススメでした。


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2015年9月25日金曜日

性暴力の加害者と安倍談話、専門バカの暴走


【メディア草紙】1979 2015年9月25日(金)
■性暴力の加害者と安倍談話、専門バカの暴走■


▼「世界」10月号で読み応えがあったのは、社会学者の牧野雅子氏による〈「性暴力加害者の語り」と安倍談話〉。

牧野氏が〈これまで話を聞いた加害者たちは、懲役20年を超える刑を言い渡された犯罪者から、裁判進行中の被告人、被害者との示談が成立した者、刑事事件にはならなかったセクハラ、DV加害者等。立場や罪名は異なるが、全員が男性である。会って話を聞いたり、書面でインタビューを行った相手は40名ほどになる。また、100人を超える性暴力被害者と会い、話を聞いてもいる。〉

そして〈わたしがこれまでインタビューを行っていた性暴力加害者たちは、自分の加害性を引き受けられていない人たちである。反省が出来ていないと言ってもいいだろう。〉

この聞き取り経験の鏡に「安倍談話」を映すと、その特徴が鮮やかに描かれるという寸法だ。

▼安倍談話には、たとえば「終戦」ではなく「敗戦」と明示したり、誤った戦争へ進み始めた時点を「満州事変」と明示したり、おそらくは無意識の裡(うち)に、村山談話よりも明らかに踏み込んだ、驚くべき表現が紛れ込んでいる。
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html

でも、それらはたぶん「不慮の事故」で、この談話全体に覆いかぶさっている「他人事(ひとごと)感」は、英語メディアが使っていた haifhearted (いい加減、中途半端、気乗りしない)という表現がピッタリだった。つまり、心ここにあらず。

牧野氏が指摘する性暴力加害者の特徴を、まず三つ紹介する。

〈わたしが話を聞いてきた性暴力加害者たちは、加害者という立場からも下りることが可能だと思っているようだ。一体いつになったら被害者に許してもらえるのか、いつまで過去を背負わなければならないのか、と不服そうに言う。公判廷では、「反省しています、一生かけて償います」そう言ったにもかかわらず、である。〉

〈彼らにとって謝罪は、被害者に対して行うものではないらしい。自身の加害行為を詫びることが目的なのではなく、謝っている姿を見せて評価を得るために謝るのである。それも、被害者にではなく、自分を評価してくれるであろう第三者に向けて。その最たるものが裁判である。〉

〈性暴力加害者たちの表現には一人称がほとんど登場しない。(中略)彼らの主語のない語りは威圧的である。一般論を振りかざし、社会や世間を後ろ盾に、抑圧的な文言を並べる。「ねばならない」が繰り返し用いられることも特徴的である。責任を回避しつつも、力を行使しようとする態度が、そこに見える。〉

たしかに安倍談話には「主語」がない。主語だけがない、と言ってもいいくらい、饒舌な言葉言葉言葉の林立の中に、「わたし」が欠けている。

▼安倍談話の具体的な言葉の使い方について言及した、とても興味深い箇所があった。特に印象深い箇所は【】。


――――――――――
〈彼ら(=性暴力加害者)の多くは、加害行為についての具体的な言及を避ける代わりに、被害者を「傷つけた」という言葉で、曖昧に加害行為を暗示する。「被害者を傷つけたことに間違いはありません」「女性を傷つけてしまったという過去があります」「彼女を傷つけたことから目をそらしてはならない」といった具合である。

彼らはなぜ、具体的な記述を避けて、性暴力加害行為を説明するのに「傷つけた」という言葉を使うのか。もちろん、傷つけたと言えば、自分が具体的に何をしたかを言わないですむからではある。加えて、被害者の心情や置かれた状況を理解しているような印象を与えることができること、加害者が傷つける意図はなかったと言えば、責任が軽減されるような言葉であることも一因だ。【傷ついた程度は被害者の置かれた状況に影響を受けることから、その人がたまたまナイーブな質ゆえに傷ついただけで、他の人が相手だったら傷つかなかったかもしれないと、相手の弱さを非難する気持ちも含まれている。】〉
――――――――――


加害者の側が発する「傷つけた」という言葉遣いが、さらに被害者を「傷つける」のだ。

▼また、「寄り添う」という言葉が引き起こす二次加害についての言及も鋭かった。

牧野氏の〈性暴力は、加害者ありきである。性暴力を抑止するためには、加害行為そのものにアプローチすることが必要だ。〉という指摘は、誰も否定できない、解決のためのイロハのイだ。

▼「加害を隠すことによる、さらなる加害」という安倍談話が抱えている構造的な問題は、朝日新聞9月7日付の〈加害資料、常設展示は3割 戦争伝える85施設の調査〉(浅倉拓也・広島敦史記者)という記事とも意識下でつながっているかもしれない。

〈朝日新聞は国立や都道府県立の歴史資料館、平和博物館など116施設にアンケートを実施し、102施設から回答を得た。このうち満州事変(1931年)以降の戦争資料を展示しているとした85施設を調べたところ、旧日本軍などによる戦時下の加害行為の常設展示は約3割の26施設にとどまっていた。〉

思うに、これって要するに「男」の問題なんじゃなかろうか。


▼安倍談話が発散する「他人事(ひとごと)感」については、同号で三谷太一郎氏が「第一に、客観主義的で、まるである種の教科書のように公式的に、戦争に至る歴史的経緯が論じられていること」「第二に、深い道徳感情(モラル・センチメント)がこもらない感傷的(センチメンタル)な叙述であることだ。それは歴史認識における主体性の欠如の反映だ」と指摘している。

三谷氏の論考の面白い点二つに触れておきたい。

一つは、安倍談話が未来の世代の謝罪を拒否した点について。具体的には〈あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません〉という箇所だ。

この箇所を一読して、ぼくは「なんで未来の世代の意思をあんたが勝手に決めるんだよ」と思ったが、三谷氏いわく〈これでは「謝罪」は意味をなさない。歴史に「限定相続」は許されない。それが「歴史の厳しさ」だ。それを学ぶのが歴史を学ぶということだ。〉まったくその通りだ。

もう一つは、「専門家支配」の危険について。〈かつてオルテガ・イ・ガセットは『大衆の反逆』(1930年)において、

「一つのことに知識があり、他のすべてのことには基本的に無知である人間」、

すなわち大衆化した専門家の野蛮性を厳しく排撃した。専門家が自己限定の自覚を欠いたとき、専門家支配は暴走する。私たちがつい先ごろ目の当たりにした東日本大震災における東京電力福島第一原発の事故は、まさに専門家支配がもたらした破綻の極致であったのではなかろうか。歴史を遡れば、1930年代から敗戦までのいわゆる軍部支配は、軍事の専門家による専門家支配の一形態であったといえる。〉

▼この「軍事の専門家支配」について、現状を抉(えぐ)る重い論考が、纐纈厚氏による〈自衛隊の軍事作戦計画 統幕の内部文書は何を意味しているのか〉だ。

また、加藤陽子・半藤一利両氏による対談「歴史のリアリズム――談話・憲法・戦後70年」でも、加藤氏が歴史家ならではの角度から見事に切り込んでいる。いわく、


――――――――――
〈戦後の1949年、経済安定本部が、太平洋戦争による日本の国富の被害総額は敗戦当時の価格で653億円だったと発表しました。ところが、戦費として国が国民の郵便貯金などから強制的に徴収した公債残高だけでも敗戦時に1408億円、そして政府保証の民間債務が960億円、合計で2368億円あった。つまり、政府は国民にそれだけの借金をし続けて、ようやく戦争を継続していたのです。

ところが1934-36年の卸売物価指数を100とすると、49年の指数は2万2000。つまり国民は、夫や兄弟や父を戦場で殺され、空襲でも殺され、他国民も殺し、そのうえ2368億円をパーにされたのに、インフレによってそのパーにされた気持が飛んでしまったのです。

戦費がどれくらいか国民が知らなかった背景には、1937年の日中戦争勃発以降、45年まで、国会(帝国議会)が軍事予算についての報告を受けることができず、したがって国会で予算の質疑もできなかったことがあります。今後、万が一、小さな紛争などを契機に「軍事予算」的なものが特別会計枠のような仕組みで審議されにくくなっても、私たちは気づかないのではないか。これは本当にこわいことです。〉
――――――――――


▼半藤氏も、ニッポンの安全保障政策の激変について

〈今年の4月27日にニューヨークで、日本の外相と防衛相、米国の国務長官と国防長官による2+2の会議が開かれ、日米安保条約の前文と六条で「極東における国際の平和と安全の維持のために」兵力を使う旨明記されているところが、大きく広げて「アジア太平洋地域およびこれを越えた地域の安定と平和と繁栄した情勢を維持するために」軍隊を出すと変えられた。

このことを、たった四人で決めてしまったわけです〉と勘所を押さえたうえで、「B級昭和史」の連載を通して得た実感を〈当分の間は大丈夫という楽観性と排他的同調性、この二つが日本人のある特徴であり、現代、そしてこれからの日本人にも同様のことが言えるのではないかと思っています〉

と語り、ニッポン人の悪いクセを炙りだしている。

この「排他的同調性」は、朝日9月24日付に載っていた緒方貞子氏インタビューの、難民受け入れをめぐる「私が弁務官(=国連難民高等弁務官)をしているころは、いろんなことをしてあげようという気持ちは(日本側に)今よりあった。今はかなり自信たっぷりの国になったと感じますね。思いやりが減ったんですよ」という論評と通底している。

緒方氏は1991年から2000年まで弁務官を務めた。だから、緒方氏の眼には、この20年前後でずいぶんとニッポンのお国柄が変わったと映っている。また、このインタビューで緒方氏は「日本の法務官は、(人道的ではなく)厳しい法律的な視点で(認定審査を)する」と批判しており、これもまた専門バカ批判の一典型だろう。

▼本誌1975号(2015年9月19日)で取り上げた、パブコメの軽視や、通信傍受=盗聴ホーダイや、経団連の「死の商人」化なども、「大衆化した専門バカ」の暴走、という括(くく)りで考えたほうが価値的なのかもしれない。

そもそもこれって昔からある問題なのだが、このところ、たくさんの分野で、同時に「専門バカの暴走」が勃発しているような気もする。なんでだろう。

デジタル版で読める緒方氏のコメントが、痛烈だ。

「テクノロジーを中心とした情報の繁栄のなかで、どうやって本当の知識、そういうことに基づいた政治をし、哲学をつくっていくか、ということなのじゃないでしょうか。そういう力が逆に減ってきていると思う。あんまり早く知識がまわりすぎちゃうから。消化しなくても知っちゃうんですよね。だけどそれが知識というものになっていくかというと……。そういうことを調べている学者がいるんじゃないの。今、哲学者って何をしてるの?」

うーむ。ということは、インターネットやメールを使うのをやめたら「本当の知識」が身につくかも。あ、その場合、本誌はプリントアウトしてお読みください(呵々)。


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2015年9月23日水曜日

経団連「死の商人」化計画 その4終


【メディア草紙】1978 2015年9月23日(水)
■経団連「死の商人」化計画 その4終■


▼さて、1998年8月24日付朝日には〈生き残り探る防衛産業 財政難で受注に陰り(自衛隊)〉という記事がある。


――――――――――
〈特に、大砲や機関砲などの火砲類の受注数量は減り方が著しい。ピーク時の4分の1に落ち込んでおり、砲製造業は一昨年、「不況業種」として保護の対象になる、労働省の特定雇用調整業種に指定された。こうした状況を背景に、業界側は紛争国やその恐れのある地域への武器輸出を禁ずる武器輸出三原則の見直しを求め始めた。武器輸出三原則は、日米間に限って武器技術の移転を認めているものの、装備品そのものの輸出は認めていない。これに対し、日米の防衛産業でつくる「日米安全保障産業フォーラム」は昨年末、日米で共同開発した装備品については米国への輸出を認めるよう両政府に低減した。〉
――――――――――


▼この記事の末尾についていた、三菱重工業・相川賢太郎会長の、武器輸出三原則についてのコメントが興味深い。

「装備品が輸出できないのは確かに苦しい。もしうちの発電プラントが輸出禁止になったら、会社は倒れます。輸出できれば安くなるのはわかっているが、武器を輸出させてくれと言うようなことは、慎まないといけない。憲法にもとるし、自分の利害とくっつけて議論する問題ではない。ただし、米国は別だ。日本と同盟関係にある限り、米国に輸出してはいけないというのはおかしな話ではないか。輸出した方が日本の安全にも役立つので、そのくらいは融通をきかせてもいいのではないか」

つまり1998年段階ですら、三菱重工業の会長が【武器を輸出させてくれと言うようなことは、慎まないといけない。憲法にもとるし、自分の利害とくっつけて議論する問題ではない】と言っているわけだ。なんだ、2015年の、この変わりようは。

▼たぶんあんまり関係ないと思うのだが、つい年齢が気になってしまう。この相川氏は1927年、昭和2年生まれ。日本の敗戦時は18歳だった。

前号で紹介した土光敏夫氏は1896年、明治29年生まれ。敗戦時は49歳。

経団連会長として小泉政権時代、政治献金を復活させ、死の商人化や改憲など、政治への介入を猛烈に進めた奥田碩氏は1932年、昭和7年生まれ。敗戦時は13歳。いまの経団連会長である榊原定征氏は1943年生まれ。敗戦時は2歳。

▼さて、21世紀に入り奥田経団連は一気呵成に死の商人化へ歩を速める。怒涛の展開を見せたのは今から11年前、2004年である。

▼2004年2月5日付朝日〈武器輸出三原則、経団連「再考を」自民党五役に/日本経団連首脳と自民党五役の懇談会が4日、開かれ、経団連側は武器輸出を禁じている武器輸出三原則の見直しの検討を要望した。(中略)(経団連は)「防衛産業の技術・生産基盤自体が失われかねない」と危機感を募らせている。〉

▼翌月の30日付〈武器輸出「個別審査で」自民部会、三原則見直しで提言/三原則については、石破防衛庁長官が(2004年の)1月、武器の共同開発や輸出対象を米国以外に広げることについて「政府として検討することが必要だ」と発言。日本経団連首脳も2月、自民党5役に見直しを要望していた。〉

▼同年7月21日付〈経団連「武器禁輸再考を」防衛予算減に危機感/平和憲法のもとで、武器の輸出を禁じる原則を持つことで、日本への信頼が高まり、産業界も恩恵を受けてきたはずだ。その点を経団連はどう考えるのか。確かに、武器輸出が認められれば、経営は安定して、業界は潤うかもしれない。しかし、防衛予算が先細りすることは分かっていたはずだ。個別企業・産業の立場を超えて、日本経済全体の利益を考えるのが経団連の本来の機能ならば、防衛部門に代わる事業の柱を育てるよう産業界に促すことが、経団連の役割ではないか。(中川隆生記者)〉

▼翌月21日付〈武器の日米共同生産検討 政府、輸出三原則見直し 政府内慎重論も/武器輸出三原則の見直し問題で、政府が日米両国による武器の共同開発と共同生産を認める方向で検討していることが明らかになった。〉

▼同年12月11日付〈国防族・財界が牽引 大綱には盛らず 検証・武器輸出三原則緩和/あらゆる武器の輸出禁止から、「個別の案件ごとに検討」へ。戦後日本が「平和国家」の看板にしてきた武器輸出三原則が、小泉内閣の手で塗り替えられることになった。(中略)

出発点は昨年(=2003年)12月。政府がミサイル防衛(MD)の導入を決めた時だった。日米で研究が進む次世代型がやがて開発・生産段階に入れば、日本が担当する部品などの輸出を迫られることになるのは必然だったからだ。それは三原則に触れてしまう。政府・与党内にはMD関連の輸出を認めることに異論はなかった。官房長官談話が示すことになる「MD関連は三原則の例外」との方向は、この段階で固まっていた。新たに加わったのは、その他の武器も便乗させようという動きだ。〉

▼2005年3月17日付〈タブーに踏み込んだ(改憲シフト 日本経団連:上)〉

ここで、防衛産業界の動きが、2015年現在の最大のキーパーソンとつながる。


――――――――――
〈経済界にとって長らくタブーだった憲法改正問題に、日本経団連が大きく踏み込んだ。国の基本問題検討委員会(委員長=三木繁光・東京三菱銀行会長)が、集団的自衛権行使の明確化などで改憲を求める報告書を1月に発表したからだ。(中略)

経済団体では従来、個人の資格で参加する経済同友会だけが、憲法問題に積極的にかかわってきた。その同友会も真正面から取り組んだのは、戦中派経営者が徐々退き、至上主義に基づく新保守主義に共感する戦後派が主流を占めるようになった90年代半ばからだ。

それでも94年発表の提言「新しい平和国家をめざして」は、改憲の国民的議論が必要、と強調するにとどめた。はっきり改憲を求めたのは03年4月発表の提言だった。

経団連もそれを横目でみていた。奥田氏の前任会長(98年~02年)だった今井敬・新日本製鉄相談役名誉会長は「防衛問題に関心があり、毎年沖縄を訪問してきた。会長3年目ごろに(政府側から)憲法調査会の委員を、という話があったが、経団連事務局に強く反対されて断った。まだ機が熟していなかった」と振り返る。今井体制時代は、バブル崩壊後の長期経済停滞からの脱却が最大のテーマ。不良債権処理や金融システムの再生問題に追われる経済界の「正規軍」が憲法問題にまで口を出す余裕はなかった。その点、奥田体制下では、経済再生の道筋が見え始め、主要企業の収益好転とも重なった。(中略)

昨年(=2004年)2月、経団連は、献金に向けた政策評価を伝えるために自民党首脳との懇談会を開いた。そこで当時の安倍晋三幹事長から、評価対象に外交・安全保障問題を加えてほしいと注文された。これが、憲法問題にかかわるタイミングを計っていた経団連の背中を押した。2カ月後の昨年4月、憲法・安全保障問題の委員会の設置を表明。旗を振ったのは、自称「改憲論者」の奥田氏だった。〉
――――――――――


▼2009年7月15日付〈日本経団連、武器の禁輸「見直しを」〉

▼2010年2月15日付には〈武器禁輸に外圧内圧/武器輸出三原則 緩和へ動き/防衛産業界 乗り遅れ深刻〉と武器輸出OKじゃん的な見出しが立った。

▼同年7月14日付〈武器輸出見直しを要望 日本経団連〉

▼そして2013年3月2日付〈武器輸出三原則 骨抜き/安倍内閣が1日、武器輸出三原則の大幅緩和に踏み出した。国内で製造した最新鋭ステルス戦闘機F35の部品の輸出を三原則の例外にしたのだ。これまで基本理念としてきた「国際紛争の助長回避」という考え方は消え失せ、三原則の形骸化が加速する。〉

かなり批判的な書きぶりだが、だったらなぜ1年前の〈武器禁輸に外圧内圧〉で、ほとんど価値判断のない解説記事を出したのだろう。一人の人間が書いてるわけじゃないから、まあ、そんなものなのでしょう。

▼2014年6月17日付〈国内13社、武器見本市に 輸出三原則緩和 慎重に商機狙う〉

▼2015年7月26日付〈踏み出した武器輸出 国内で展示会、海自も出展 日本の最新兵器、各国軍人が注目〉

〈横浜市の国際会議場で5月、国内初の本格的な海軍兵器や海上安全システムの国際展示会が開かれた。国際的な軍需大手のブースが並ぶ展示会の入り口には、「JAPAN」と書かれた日本企業の合同展示ブースが設けられ、海上自衛隊も最新鋭潜水艦の模型を展示した。(中略)

展示会の世話役を務めた森本敏元防衛相によると、日本開催の背景には、武器輸出を条件付きで認める防衛装備移転三原則が昨年(=2014年)4月にできたことがある。英米豪など約120の企業や団体が参加し、日本からは20社ほどだった。〉

そして、この記事につながるわけだ。


――――――――――
〈武器輸出「国家戦略として推進すべき」 経団連が提言
小林豪2015年9月10日19時50分

経団連は10日、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を公表した。10月に発足する防衛装備庁に対し、戦闘機などの生産拡大に向けた協力を求めている。〉
――――――――――


▼防衛産業って、構造的、必然的に国策である。武器の値段はあってなきがごとしで、市場経済はほとんど関係ない。そこに首を突っ込んで、恬(てん)として恥じることのない下衆(げす)天国に、ニッポンの財界人たちは成り果ててしまったか。

「輸出できれば安くなるのはわかっているが、武器を輸出させてくれと言うようなことは、慎まないといけない。憲法にもとるし、自分の利害とくっつけて議論する問題ではない」と三菱重工業の相川賢太郎会長が発言してから、今年で17年が経つ。もしもこの相川氏の発言が見せかけの言葉だったとしても、【そう言わなければならない社会】だったわけだ、このニッポンという社会は。

▼武器輸出3原則をめぐる財界の言説をさかのぼると、21世紀に入ってから、あからさまにニッポン社会が変容してきたことがわかる。

いや、変容したのではなく、先祖返りしたのかもしれない。高岩仁氏の『戦争案内』という本を読むと、【近代日本史における戦争は、最強、最高の商売だった】ことが、つまり【誰が戦争を必要としたのか】がよくわかる。目次は以下のとおり。

第1章 明治維新からアジア太平洋戦争まで(明治維新以来、日本の経済発展を支えた侵略戦争/天皇は世界一の大資本家であり、大地主だった ほか)

第2章 アジア太平洋戦争-この戦争を必要としたのは誰か(日本の民主化をクーデターで押しつぶして、軍事政権を樹立、アジア太平洋戦争へ/マレー半島での中国系住民の大量虐殺について ほか)

第3章 再びアジアを植民地化(フィリピンの戦後/沖縄 ほか)

第4章 殴る側の大国となった日本(一九八五年までの日本経済/一九八五年、プラザ合意以降日本の社会構造は根本的に変わった ほか)

軍需産業こそが近代国民国家を駆動させてきたのだ。この『戦争案内』は、アマゾンだと15000円などというけしからん値段で売っているので、興味のある人は都立中央図書館や国会図書館で読んでみてください。

東京だと都立中央図書館をはじめ19館が所蔵。
https://calil.jp/local/search?csid=tokyo&q=%E6%88%A6%E4%BA%89%E6%A1%88%E5%86%85+%E6%98%A0%E7%94%BB%E8%A3%BD%E4%BD%9C%E7%8F%BE%E5%A0%B4

沖縄だと読谷村立図書館で読めるそうだ。

また、全国の44の大学図書館で
http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA65880468#anc-library

読めるらしい。

「戦後70年」といわれる今年、オススメの本はと問われたら、ぼくは今年復刊した野呂邦暢『失われた兵士たち 戦争文学試論』 (文春学藝ライブラリー)と、この高岩仁『戦争案内』の2冊を挙げる。

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2015年9月22日火曜日

経団連「死の商人」化計画 その3


【メディア草紙 1977】2015年9月22日(火)
■経団連「死の商人」化計画 その3■


▼1987年9月8日付朝日。
〈経団連、米国防総省元高官を招く 武器技術について話し合い〉

▼1990年12月3日付朝日には、軍需企業と防衛庁(現在の防衛省)との日常的な関係が描かれた〈あうんの呼吸 防衛庁の意向先取りし自主研究(軍需産業:10)〉という記事があった。(小倉一彦記者)


――――――――――
〈防衛産業にとって政界以上に大切なのが、防衛庁との日常的なつき合いだ。夜になると、若いOLやサラリーマン、カップルでにぎわう東京・六本木。その一角に防衛庁がある。

午前9時過ぎ、出勤する防衛庁職員らに交じって、メーカーや商社などの防衛部門の営業マンがやってくる。薄いバッグをこわきに抱えたり、企業名のついた紙袋に書類を入れたり、格好はさまざまだ。正門左わきの受付で面会票に記入すると、装備局のある本館や、「幕(ばく)」と呼ばれる陸上、海上、航空の幕僚監部の入った建物に向かう。本館6階、午前9時過ぎだと職員の数はまだ少ない。若い営業マンが、数冊の封筒を抱えて廊下に立っている。知り合いの担当者がまだ来ていないのだ。

○実務者相手、サイン読む

営業マンの話し相手は、主として課長以下の実務者クラス。雑談に終わることも多いが、何げない話題の中に防衛庁の将来の構想をほのめかされることがある。たとえば「飛行訓練のシミュレーション装置はできないかなぁ」と打診とも質問ともとれるいいまわしでサインを送ってくる。時には、六本木や各地の部隊、研究所などでのひと言が、大きな研究、ビジネスの端緒になる。企業側が防衛庁の意向をくみ、新しい装備について提案もする。

こうしたやりとりを経験者は「あうんの呼吸」と表現する。ある営業マンは「多い時は週3、4回以上足を運ぶ。知り合いの職員が転勤したら、異動先を訪ね、回り先を広げていく」といった。(中略)

防衛庁が民間の協力を求めるやり方の1つに、民間企業の技術者を防衛庁に派遣させる「労務借り上げ(労借=ろうがり)」という方法がある。この派遣者を通じて、防衛庁は民間企業が社費をかけて研究した成果を吸い上げる。川重(=川崎重工業)によるとこの時(=中等練習機T4の開発)は、76年度から川重、富士重が労借に応じた。この段階になると、各社とも派遣社員らをバックアップするため、社内的にも十分な研究体制を組む。これに対して防衛庁から支払われるのは基本的には派遣社員の「日当」だけだ。(中略)

防衛庁と防衛産業は人の面でもしっかりと結びついている。88年度に退職した1佐以上の自衛官500人のうち、1割強の57人が、情報収集や営業上のアドバイザーとして、その年度の防衛庁の契約高上位20社に就職している。

だが、その密着関係にも、冷戦終結の影響が忍び寄ってきた。(後略)〉
――――――――――


▼アメリカがSDI(戦略防衛構想)からTMD(戦域ミサイル防衛)に舵を切ったのは今から22年前、1993年だった。この年、北朝鮮がノドン1号の試射実験をおこなった。


――――――――――
1995年6月16日付朝日
〈「対米武器輸出の解禁を」防衛産業、三原則見直し要望〉
〈防衛関連メーカー131社でつくる日本防衛装備工業会(会長・北岡隆三菱電機社長)と経団連は、1996年度の国の予算編成にあわせ、海外への武器輸出を禁じている「武器輸出三原則」の見直しを政府に求めていく方針を決めた。国の防衛予算が伸び悩み、調達額が減っていることから、「いまのままでは防衛産業を維持するには限界がある」というのが理由。(中略)

5月、経団連は防衛生産委員会を中心に「新時代に対応した防衛力整備計画の策定を望む」と題した提言をまとめ、米国向け輸出の解禁を要望。日本防衛装備工業会も、5月に同様の要求をまとめた。すでに自民党、新進党などの政党や、政府機関にこうした意向を伝えており、予算編成に向けて働きかけを強める方針だ。〉
――――――――――


▼この翌日付には〈五十嵐官房長官は「応じない」 海外への武器輸出三原則見直し〉という記事。

▼翌7月12日付朝日大阪〈思惑はらむTMD(核廃絶への道 第3部:7)〉には、TMD(戦域ミサイル防衛)が「救いの神」だという当時の業界の声が載っている。


――――――――――
〈94年6月、経済団体連合会は、TMD計画を担当する米国防総省の職員と、東京で非公式の会議を開いた。同8月、首相の私的諮問機関「防衛問題懇談会」(座長・樋口広太郎アサヒビール会長)が首相に報告書を答申。TMDについて「積極的に取り組むべきだ」という提言を盛り込んだ。(中略)

95年3月、政府は95年度予算で、TMDの調査・研究費として2000万円の計上を決めた。(中略)

北朝鮮の試射実験以後、事実上、TMDの導入を前提としたような動きが産業界を中心に加速してきたことが見てとれる。

この背景には、米国と同じように、TMDを冷戦後の最後の商機ととらえる日本の防衛産業界の見方がある。TMDが導入されれば、日本で投入される予算は二兆円を超すともいう。頭打ちの防衛予算の中にあって、この大規模予算は「救いの神でもあり、一歩間違えれば迷惑な存在」(防衛産業関係者)だ。業界では米国のいう「共同開発」に疑問の声が強く、「米が日本企業に求めているのは安くつく汎用技術だけで、結局は完成品を高額で売り込むつもりではないか」という危機感があるからだ。>
――――――――――


▼こうやって過去の記事をさかのぼると、ニッポンの軍需産業にとってTMDが格好の商機になったことがわかる。


――――――――――
<1983年に「対米協力については武器輸出禁止の三原則の例外とする」との政府決定に基づいて始まった日米の防衛技術交流は、94年には「双方向の交流」両国政府が確認するまでになっている。(中略)

経団連の防衛生産委員会は今年(=1995年)5月、政府への要望書のなかで「米国との間で共同研究開発・生産をできる環境を整備すべきだ」と提起した。日本企業の武器輸出が禁じられている現状を打破する動きとして、注目を集めた。(中略)

防衛生産委員会の池誠事務局長は、「要望書はTMDに直接関連しない」とする一方で、「国内企業から輸出の要請があったわけではない。むしろ、米国側の期待をくんだものだ」と語る。仕上がりの精度の高さに示される日本の生産技術は、それだけでは供与できない。軍事転用が可能な両用技術の電子部品、機器は米国も日本から輸入したほうが安上がり。米国への輸出解禁は、両国の利益になる、との立場だ。>
(1995年10月28日付朝日。見出しは<ポスト冷戦、問われる日米安保 新しい枠組みの構築は 再定義の論点>)
――――――――――


▼1996年には、衆院選で、小選挙区比例代表並立制が導入される。ここから国会の「調整の政治」(よくもわるくも日本的な)の劣化が始まっていくわけだ。

▼1997年7月28日付朝日では、イスラエルのエイラットという保養地でおこなわれた、アメリカ国防総省弾道ミサイル防衛局主催の「TMD会議」の様子が紹介されている。


――――――――――
〈冷戦末期から毎年開かれてきた会議は、今年(=1997年)で10回目を数えるが、テロ対策を理由に会議自体が秘密にされ、その存在はほとんど知られていない。(中略)

今年のテーマは「協力の10年の成果と展望」。イスラエルのアローミサイルの実験ビデオが大型スクリーンに映し出され、ロッキード社なども宣伝ブースを設けた。部外者は立ち入り禁止。参加者も、録音やメモは禁止された。

参加者は、200人を超える米国を筆頭に、英、仏、独、イスラエルなど。数年前から旧東側諸国なども加わり、今年はロシアのほか、チェコやハンガリーなどが招かれた。日本政府からは外務省と防衛庁、自衛隊の幹部、産業界では、三菱重工業、川崎重工業、三菱電機、日立製作所、東芝、富士通、住友商事、三菱商事など20社近くが参加した。(中略)

○武器輸出三原則、宇宙の平和利用「束縛」見直しへ日本企業も同調

「日米の貴重な防衛予算を無駄にしないため、産業間の協力は不可欠です。そのためには、いつの日か、日本の(防衛)政策変更が必要となるでしょう」

今年(=1997年)6月、来日したアーミテージ元米国国防次官補は、経団連の防衛生産委員会のメンバーの前で熱弁をふるった。元次官補は、防衛予算削減に直面している日本の産業界に、防衛装備を共同開発する際の束縛となる「武器輸出三原則」の見直しを暗に迫ったのだった。

武器輸出三原則は1967年、当時の佐藤栄作首相が共産圏や紛争当事国に武器の輸出を禁じた国会答弁。その後、海外への輸出そのものを規制した。防衛業界にとっては、大量生産によるコストダウンができず、日本の装備が海外に比べて割高になる原因にもなっている。そうした制約を知りながら、米国防総省は日本の産業界にTMDの協力を期待している。(中略)

今年(=1997年)1月、ワシントンで「日米安全保障産業フォーラム」の初会合が開かれた。民間の立場から日米の防衛装備・技術協力を率直に話し合おうという趣旨で、日本からは三菱重工業、東芝など主に経団連の防衛生産委員会のメンバー15社が参加、ボーイング、マクドネル・ダグラス、レイセオンなど米防衛産業界のトップと2日間意見を交わした。

「予想以上の歓迎だった。のみ込まれるかもしれないと心配になったほどだ」と日本のある参加者。10月には東京で2回目の会合が開かれる。アーミテージ氏や米防衛産業の熱い期待に、日本の防衛産業界も、戸惑いながら歩調を合わせようとしている。〉
――――――――――


▼記事そのものもアメリカの熱に押された客観報道ですナ。しかしアーミテージ氏、もうずーっとニッポンに睨みをきかしてるんだね。

ちょうどきょう(9月22日)の東京新聞が、2012年の「アーミテージ・ナイ・レポート」を1面で取り上げていた。見出しは〈米要望通り法制化 独自判断できるか〉。国会では山本太郎議員が言及していたが、一般紙が取り上げるのはとても珍しいことではなかろうか。喧嘩過ぎての棒千切りだけど。


――――――――――
〈「この夏までに成就させる」。安倍晋三首相は五カ月前の訪米中、米議会での演説で安保法成立を約束した。まだ法案を閣議決定する前で、国民も国会も内容を知らない段階だった。

だが、集団的自衛権の行使容認を含む安保法の内容は五カ月前どころか三年前に予想できた。米国の超党派の日本専門家が二〇一二年にまとめた「アーミテージ・ナイ報告書」だ。

アーミテージ元国務副長官、ナイ元国防次官補らが共同執筆し、日本に安保法の制定を求めていた。両氏は、一般に「知日派」と訳される「ジャパン・ハンドラー」の代表格。報告書の影響力からすれば、文字通り「日本を操っている」ようにも映る。

報告書は日本に米国との同盟強化を迫り、日本が集団的自衛権を行使できないことを「日米同盟の障害となっている」と断じた。

自衛隊の活動範囲の拡大や中東・ホルムズ海峡での機雷掃海も求め、南シナ海での警戒監視活動の実施も要求。国連平和維持活動(PKO)でも、離れた場所で襲撃された他国部隊などを武器を使って助ける「駆け付け警護」の任務追加の必要性を強調した。かなり具体的な内容だ。

これらの方向性は、ほぼ安保法に網羅され、首相は集団的自衛権行使の事例として、ホルムズ海峡での機雷掃海にこだわり続けた。防衛省は安保法の成立前から、南スーダンでPKOを続ける自衛隊に駆け付け警護の任務を追加することや、南シナ海での警戒監視活動の検討を始めた。

報告書では、情報保全の向上や武器輸出三原則の見直し、原発の再稼働にも言及。特定秘密保護法の制定、武器輸出の原則解禁、原発再稼働方針に重なる。安倍政権は一二年の発足以降、これらすべての政策を手がけてきた。〉
――――――――――




▼なんだか出し物が全部終わった後の種明かしみたいな記事だ。

ニッポンが戦争に負けて、マッカーサーが天皇制を守って以来、ニッポン人にとってアメリカは、無意識の裡(うち)に「国体」の一部と化している可能性がある。そうだとすれば、ニッポンの軍事に関する、こうしたアメリカからの介入について、マスメディアはもちろん、たとえば尖鋭的な東京新聞ですら、知らず知らずの裡(うち)に後出しジャンケン的な、「触らぬ神に祟りなし」な対応になる現象にも、頷(うなず)けるものがある。

はたして有無を言わせぬ圧力なのか、官邸や外務省による過剰すぎる忖度(そんたく)なのか、なんにしても、彼の国と我が国とに関係がないはずがない。しかし、そういう情況であっても、なにかしら知恵を絞り出せるはずだがね。簡単には思いつかんけど。

長いのでつづく。


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2015年9月20日日曜日

経団連「死の商人化」計画 その2


【メディア草紙】1976 2015年9月20日(日)
■経団連「死の商人化」計画 その2■


▼経団連がいつから「死の商人」化したのかをさかのぼる話。今から35年前の1980年4月9日付朝日新聞に、次のような記事が載っている。1980年といえば、昭和55年か。昭和は遠くなりにけりだなあ。


――――――――――
〈「武器輸出論」を批判 経団連会長「別の方法もある」〉

〈経済団体連合会の土光敏夫会長は八日の記者会見で、財界の一部で最近出てきた「武器輸出論」に批判的な態度を示すとともに、米国とイランの断交に対しては、事態収拾のため「中近東に対してクリーン・ハンドである日本ができることをやるべきだ」との考えを示した。

土光会長は会見で、永野重雄・日本商工会議所会頭がこのほど、原油をはじめとした資源の確保もからめて武器禁輸の緩和を検討してもよいのではないか、との考えを示したことに対し「個人的意見」としたうえで「産油国に武器を売って油を取ることも一つの方法かも知れないが、別の方法もある。それは選択の問題だが、何も武器を売らないと油が入ってこないとか、輸出入の不均衡がどうにもならないとは思わない。自動車の輸出で批判を受けているのだから、武器を輸出したらどうなるだろうか」と述べた。(中略)

財界で防衛論議が盛んになってきたことについては「財界人だけでなく、みんなが意見を出したうえで決めるのが民主主義だ」と主張した。〉
――――――――――


▼武器輸出反対を、はっきりと選択していたわけだ。次に、1981年1月15日付。


――――――――――
〈火中のクリを拾うな 経団連会長 武器輸出緩和に慎重論〉

〈稲山嘉寛経済団体連合会会長は十四日、東京・有楽町の日本外国特派員協会の昼食会で「日本経済の展望と課題」と題して初めて講演したが、講演後の質疑応答の中で武器輸出問題について「戦争の危険のない国には輸出してもいいといっても、その国が将来にわたって戦争をしないかどうかはわからない。結果的に戦争に巻きこまれることもある。火中のクリはあまり拾わない方が日本にとっては賢明」と武器輸出の緩和には慎重な姿勢を示した。〉
――――――――――


▼厄介なものに手を突っ込むな、火傷するぞ、という意見。それでも立派だ。土光、稲山両氏とも、じつに真っ当な識見だ。というか当たり前すぎる話だと思うのだが、そう思うほうが狂っている世の中になってしまった。

ここで、前号で紹介した、お金という宗教を信じた成れの果てである経団連の最新の動向を確かめておこう。

〈経団連は15日の幹事会で、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を了承し、正式決定した。(中略)安倍政権は昨年4月、武器輸出三原則を撤廃し、武器の輸出や共同開発を本格化させた。しかし、提言では長期的な具体策が不明確だとし、「防衛関連事業から撤退する企業が出ている」と危機感を強調した。〉朝日9月16日付

土光、稲山発言と読み比べてみよう。1980年代の日本人が2015年にタイムスリップしたら、目を剥くこと請け合いである。平成の世では、すでに「武器輸出三原則」も否定され、「死の商人として金儲けするのは前提」になっている。

どこから変わり始めたのだろう。とても既視感が強いんだが、やっぱりアメリカからの「報告書」っぽい。1984年9月15日付朝日。


――――――――――
〈米報告書が日本の武器禁輸緩和を予測 防衛庁説明〉

〈十四日開かれた経団連防衛生産委員会(委員長 守屋学治三菱重工業相談役)で、防衛庁の山田勝久装備局長が、米国国防総省の諮問機関である防衛技術審議会国際産業協力部会(議長カリー元国防次官)の報告書について説明した。

この報告書は、昨年十一月の日米相互防衛援助協定に基づく交換公文で、わが国から米国への武器技術供与の道が開かれたことに伴い、日米間の武器技術協力問題について幅広く調査、分析したもの。報告書は、わが国の防衛関連技術を高く評価し、エレクトロニクス用セラミックなど十六項目に関心を示す一方、

今後防衛関連輸出の制限緩和を求める圧力が新たに生まれ、武器輸出三原則がなしくずし的にゆるめられて最終的には非殺傷防衛機器の第三国への輸出が認められる、と予測している。

(中略)日本の武器禁輸政策(米国向け技術移転を除く)は今後とも続くが、「何らかの変更が行われることは明らか」とし、今後十年から二十年の間に、米国へのハードウエアも含め技術移転の拡大、日米の防衛システムの共同開発と生産、第三国への汎用技術、機器の輸出増、非殺傷防衛機器の特定の第三国への輸出などが「禁輸三原則の枠組みの域を脱しないと解釈されて」実施されると予測している。〉
――――――――――


▼マジで予言書の域に達している。しかし、この報告書から30年経って、さらに進んだわけだ。具体的に、結果的に、死の商人化が進んだきっかけは、1990年代の「TMD」(戦域ミサイル防衛)だったっぽい。長いのでつづく。


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2015年9月19日土曜日

パブコメ、盗聴、死の商人 安保法制の影で


【メディア草紙】1975 2015年9月19日(土)
■パブコメ、盗聴、死の商人 安保法制の影で■


▼安保法制の影で、幾つもトンデモない動きがある。とりあえず目についたものを3つだけ挙げておく。

1 「改正」派遣法のパブリックコメントがわずか3日
2 刑事司法改革法案の通信傍受立ち会い排除
3 経団連の「死の商人化」宣言


▼まず1番目。「改正」派遣法のパブリックコメントが、わずか3日間で打ち切られた件。産経WESTが記事にしていた。


――――――――――
2015.9.17 19:34 
〈改正派遣法のパブコメわずか3日間 原則の10分1の日数 厚労省

11日に成立した改正労働者派遣法の政令に対するパブリックコメント(意見公募)をめぐり、厚生労働省が原則として30日間設けなければならない募集期間を、3日で打ち切ったことが17日、分かった。今月30日に迫る同法の施行日に間に合わせるために期間が短縮されたが、関係者の間では疑問の声が上がっている。

パブコメ制度は行政手続法で原則として30日以上の募集期間を設けることとされている。厚労省は衆院で11日に可決、成立した改正労働者派遣法の政令と省令、告示計10件に対するパブコメを実施すると15日に公表。ところが募集期間は17日までの3日間とされた。

同法は野党の反対で国会審議と成立が大幅に遅れ、施行日も当初予定の9月1日から30日へ延期された。厚労省は「パブコメ手続きを施行日までに終わらせるために、3日間に短縮した」としている。

これに対し、労働組合関係者は「わずか3日間では意見を提出する機会が奪われる」と反発している。〉
――――――――――


▼ひでえナ。行政手続法の「第六章 意見公募手続等(命令等を定める場合の一般原則)」を読むと、30日以上ってのは、あくまでも「原則」だから、期間を縮めても違法ではないんだナ。よって罰則などない。ニッポン社会に蔓延している「公文書至上主義」の裏返しで、「だって法律に書いてないもん」というわけだ。罪に問われなければ何をしてもいいから、こうした厚顔無恥な仕事も進めることができる。

「改正」派遣法そのものの問題点は、グーグル博士に聞けば山ほど出てくるので省略。


▼2つめの「刑事司法改革法案の通信傍受立ち会い排除」。これは衆院は通ったが、安保法案がモメたから参院は時間切れ、今国会での成立は断念、という僥倖に恵まれた。マスメディアはこの法案の問題点を大きく報じていない。おそらく今後もこの法案に焦点を合わせることはないだろう。

これ、もともとは大阪地検特捜部の証拠改竄(2010年。もう5年も経つんですね)をきっかけに、「冤罪を防ぐための可視化」が目的だったのだが、捜査のための「武器」を強化しまくる法律に変容した。なんともはや。どこで誰がいじくったのかを辿ることが大事なのだが、とくにひどいのは通信傍受だ。

通信傍受の拡大、つまり盗聴の拡大について、衆院を通った時点での朝日の記事に、仰天の内容がチラリとだけ書かれてある。要注目の箇所は【】。


――――――――――
2015年8月6日付
〈通信傍受 第三者立ち会わず

通信傍受は対象犯罪の範囲を拡大し、薬物や銃器など4類型に組織的な詐欺や窃盗など9類型を加える。また、【従来は警察が通信業者の施設に出向き、第三者の立ち会いのもとで傍受する必要があったが、警察の施設でも傍受でき、第三者の立ち会いも不要とした。】

委員会では野党から「プライバシーを侵害する恐れがある」との指摘が相次いだ。このため、【修正案には盛り込まなかったものの、与野党の合意で「傍受の際には事件に関係のない警察官が立ち会う」という運用面の方針を確認した。】〉
――――――――――


▼まず、4類型から9類型ってのは、これまでは「薬物、銃器、集団密航、組織的殺人」の4類型だったのが、新しく「放火、殺人、傷害、逮捕監禁、誘拐、窃盗、詐欺、爆発物使用、児童ポルノ」の9類型を追加するということ。

で、一つめの【】をくわしく説明すると、〈現在は電話会社の施設に捜査員が出向き、従業員の立ち会いのもとで傍受しているが、今後は、第三者の立ち会いを不要にするほか、電話会社から捜査機関に通信内容をデータ送信し、検察・警察で聴くことも認める〉(6月13日付朝日)ということだ。

一言でいうと「盗聴し放題」にするわけだ。

で、そりゃまずいだろ、ということで、二つめの【】なのだが、よく読んでみましょう。【「傍受の際には事件に関係のない警察官が立ち会う」という運用面の方針を確認した】とある。

つまり、警察が通信傍受するのに、警察が立ち会うわけだ。これ、第三者でもなんでもないよね。しかも法律の文言に入れるわけではなく、「運用面の方針を確認した」だけ。こんなことやってる国、中国とかロシアくらいじゃねえのか? この問題も、グーグル博士に尋ねると日弁連による指摘とか山ほど出てくるので以下略。


▼三つめの経団連「死の商人化」宣言。朝日記事から。


――――――――――
〈武器輸出「国家戦略として推進すべき」 経団連が提言
小林豪2015年9月10日19時50分

経団連は10日、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を公表した。10月に発足する防衛装備庁に対し、戦闘機などの生産拡大に向けた協力を求めている。

提言では、審議中の安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割が拡大するとし、「防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には中長期的な展望が必要」と指摘。防衛装備庁に対し、「適正な予算確保」や人員充実のほか、装備品の調達や生産、輸出の促進を求めた。

具体的には、自衛隊向けに製造する戦闘機F35について「他国向けの製造への参画を目指すべきだ」とし、豪州が発注する潜水艦も、受注に向けて「官民の連携」を求めた。産業界としても、国際競争力を強め、各社が連携して装備品の販売戦略を展開していくという。〉
――――――――――


▼この記事に目を剥いた5日後、経団連はこの提言を正式に決定したそうだ。


――――――――――
〈武器輸出の推進を提言 経団連、防衛産業強化求める
2015年9月16日05時00分

経団連は15日の幹事会で、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を了承し、正式決定した。自衛隊の活動範囲が今後広がることを見込んで、政府に防衛産業の基盤強化を求めている。しかし、その前提となる安全保障関連法案への国民的な理解は広がっておらず、経団連の性急な姿勢には批判も出ている。

提言は、安保関連法案が成立すれば、「自衛隊の活動を支える防衛産業の役割は一層高まる」とし、10月に発足する防衛装備庁に対し態勢の強化や防衛装備品の生産拡大、輸出促進に向けた協力を求める内容だ。

提言を作成したのは、三菱重工業の宮永俊一社長が委員長を務める経団連の防衛産業委員会。防衛産業に関わる約60社が属する。

安倍政権は昨年4月、武器輸出三原則を撤廃し、武器の輸出や共同開発を本格化させた。しかし、提言では長期的な具体策が不明確だとし、「防衛関連事業から撤退する企業が出ている」と危機感を強調した。

経団連には、2019年度からの中期防衛力整備計画に提言を反映させたい思惑もある。中谷元・防衛相は15日の閣議後会見で「政府の関与と管理のもとで、円滑に協力を進めていく態勢、仕組みはしっかりと検討したい」と語った。(後略)(小林豪)

■武器輸出三原則の撤廃後、政府が決めた武器輸出や共同開発

<昨年7月> 
・米国に地対空ミサイル「PAC2」の部品を輸出。三菱重工業が製造
・戦闘機に搭載するミサイルを英国と共同開発 

<今年5月> 
・豪州との潜水艦の共同開発に向け、同国の選定手続きに名乗りを上げる。三菱重工業と川崎重工業が参画 

<今年7月> 
・イージス艦用表示装置の共同生産に向け、米国にソフトウェアと部品を輸出。三菱重工業と富士通が生産〉
――――――――――


▼わが国最大の経済団体が、「国をあげて武器で儲けろ」と絶叫しているわけだ。ニッポン社会はこの驚くべきニュースに反対の声や異論をほとんど挙げない。言挙げしない。はっきりいって狂っていると思うが、読者の皆さんはどう思われるだろうか。

安保法制も、この巨大な「資本主義の流れ」に乗っているのではないだろうか。ニッポン社会そのものが、何十年もかけて、資本主義に侵されつつある、その一環として。

▼上に上げた三つのニュースを読むと、ニッポン社会の何かが、明らかに壊れていると感じる。かすかに機能していた「良心」というか「堤防」のようなものが(それをどう表現すればいいのかちょっとわからない)、気づけば決壊していた。つい先日の鬼怒川のように。これは安倍晋三総理が愚かだとか(そりゃ愚かなんだが)、そういう次元の問題ではない。

とくに経団連の「死の商人」化について、最初からこんなに狂っていたのかどうか、新聞記事をさかのぼってみると、隔世の感とはこういうことかと骨身に沁(し)みたので、次号はそのメモを共有したい。


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2015年9月15日火曜日

鬼怒川決壊と『河北新報のいちばん長い日』

【メディア草紙】1974 2015年9月15日(火)
■鬼怒川決壊と『河北新報のいちばん長い日』■
 

▼9月13日から17日は、七十二候の「鶺鴒鳴」(せきれいなく)。鶺鴒は稲田の水辺を飛び、ピユピユと鳴く。その鳴き声で稲刈り時を教えてくれる。

2015年の9月10日、大雨が続き、鬼怒川(きぬがわ)の堤防が決壊した。多くの行方不明者を出した豪雨で、まわりの稲田も冠水してしまった。

▼氾濫した激流の中、取り残された人々が屋根の上から、マンションのベランダから、必死で手を振る映像がテレビで何度も流された。何千万もの人々が見入ったと思う。

救援ヘリに向かって手を振る人々の姿を見ながら、ぼくはハラハラした気持ちの片隅で、『河北新報のいちばん長い日』(著者=河北新報社、文春文庫)に出てくる門田記者のことを思い出した。

▼『河北新報のいちばん長い日』には、渾身の報道が〈結果として無力だった〉例が描かれている。

2011年3月12日早朝、河北新報の写真記者である門田勲氏は、福島空港から中日新聞のヘリコプターに同乗した。言うまでもなく、前日に起きた東日本大震災の取材である。


――――――――――
〈門田はファインダーから目が離せなかった。あまりの恐怖のため、肉眼で被災の光景を直視することができなかったのだ。(中略)

ヘリは石巻市上空に来た。整備士が「あそこに人がいます」と声を上げた。小学校の屋上に「SOS」の文字が見える。白紙を並べて文字を作ったのだろう。救出を待つ人々がヘリに向かって腕を振って大声で叫んでいた。周囲は浸水している。手を差し伸べたいが、何もできない。無力感で折れそうな心を抱えながら、上空を旋回して写真を撮り続けた。

「ごめんなさいね、ごめんなさいね、ごめんなさいね……」

突然、隣席に座る中日のカメラマンがつぶやきはじめた。「僕たちは撮ることしかできない。助けてあげられないんだ……」

彼は眼下の人々に詫びるように、何度も独り言をつぶやいた。門田も「そうだよな」とうなずいた。そう言わないとシャッターを切れなかった。いまこの瞬間に亡くなるかもしれない人が真下に多数いる。自分たちの行為は見殺しと同じではないのか。

「何やってんだ、俺。最低……」

ひたすら自分を呪った。〉(72頁)
――――――――――


▼ヘリから見ても、その学校の名前すらわからなかった。一面が水没し、海のようになっていたからだ。建物の屋上で、避難者たちはコピー用紙を並べて「SOS」をつくっていた。門田氏が撮った写真は3月13日付の河北新報に載った。

▼河北新報は2011年5月13日付から、「ドキュメント大震災」という、60回を超える連載を始める。その〈狙いは、情報が交錯した震災当初、断片的にしか伝えられなかった被災現場の状況をあらためて掘り起こして再現することである〉(257頁)

連載第一回には、「屋上のSOS」の写真が選ばれた。

〈屋上のSOS(石巻) 3月13日の朝刊に、石巻市の学校を上空から撮影した写真が載った。屋上に「SOS」の白い文字が浮かんでいる。小さな人影が両手を大きく広げ、助けを求めていた〉

取材ヘリの下で何が起きていたのか。河北新報は、自らの紙面を自ら検証したのだ。

その学校は、石巻工業港から1キロほど北上したところにある大街道小学校だった。大街道小に避難し、孤立していた人の数は約600人。そして、検証取材によって衝撃的な事実がわかった。

取材は大震災の翌日。写真が載ったのは大震災の二日後。しかし〈(石巻市立病院の看護師は)日赤の緊急医療チームがやって来たのは震災1週間後だった、と記憶する。〉

▼検証の結果に、門田氏は大きなショックを受けた。


――――――――――
〈自分たちが乗ったヘリに向かって腕をちぎれんばかりに振っていた女性たちは、はっきりと「救助」を求めていた。せめて、「食糧」だけでも落としてくれればと願っていた。しかし、そのヘリは飛び去ってしまった。その後数日間、飢えと寒さが襲い、死んでいった人もいた。医療チームが救命に派遣されたのが一週間後だったことにも愕然とした。

「新聞に写真が載れば自衛隊や警察の目に留まり、速やかな救出活動につながるのではないか、そうすれば間接的にも人命救助に貢献したことになる……そんな思いで自分の気持ちを割り切っていたのだが、現実ははるかに厳しいものだった。医療チームが入るまで相当な時間がかかり、あの写真が結果として無力だったことが分かった。いったい報道とは何だ? 俺の仕事は本当に人の役に立っているのだろうか?……」

ふたたび強烈な自己嫌悪に陥った門田は、今も苦しみながら自問自答を続けている。〉
262頁
――――――――――


▼人としてのあり方を問われるような情況下で取材し、その内容が載った新聞を刷っても、「結果として無力だった」とわかった時の衝撃は、想像できない。

マスメディアの役割はたくさんある。突き放して指摘すれば、自分が属する「法人の利益のため」に働くことがマスメディア人の最大の役割である。しかし『河北新報のいちばん長い日』に描かれている出来事は、そんな「擬制」を突き抜けた場所で起きたことばかりだ。

正確な情報を、公共の場で共有すること。これが最も大事な役割だった。そしてそれはメディア本来の役割だ。しかし、河北新報のこの報道の場合、必要な情報が、必要な人に伝わらなかった。

まず、SOSの場所が不明だった。もしかしたら、伝わるべき人、部局に伝わっていたのかもしれない。想像を絶する修羅場の渦中で、対応が間に合わなかったのかもしれない。

▼メディアには「環境監視」という機能がある、と伝統的にいわれている。世界各国でメディア理論の教科書として使われている『マス・コミュニケーション理論』に、以下の記述があった。これは政治報道についての解釈だが、部分的には災害報道にも当てはまると思う。


――――――――――
〈新聞もテレビのニュースも、膨大なエネルギーと努力をそそぎこんで数々の政治キャンペーンを取材し、その努力の成果をオーディエンスに届ける。もし、読者や視聴者がその報道を読んだり見たりしなかったなら(利用しなかったら)、コミュニケーションは発生せず、意図された機能は生じない。

しかし、もし読者や視聴者が報道を読んだり見たりすれば、そのとき、私たちが環境監視と呼んでいる意図された機能が生じうる。

このようにメディアは、人々がその内容を何らかの形で利用しなければ、意図した機能を果たしようがない。環境監視機能が生じるためには、重要な出来事についてのニュース情報が、能動的オーディエンスが利用することによって型どおりに伝達され、その結果、こうした出来事についての学習が広まらなければならないのである。

このように、ニュース・メディアは、十分な数のオーディエンスがメディア内容を何らかのかたちで利用する意志と能力があるときに限り、こうした社会レベルの機能を果たすことができるのである。〉

スタンリー・J・バラン、デニス・K・デイビス
『マス・コミュニケーション理論 下』378頁
第10章 メディアとオーディエンス
新曜社、2007年
――――――――――


▼あの時、大街道小学校の周辺を含めて、河北新報が届いた地域内には、ふだんの社会の「型」は存在しなかった。『マス・コミュニケーション理論』の表現に倣えば、読者が報道を読み、利用しようとしても、利用することが不可能だったために、報道は社会レベルの機能を果たすことができなかったのだ。門田氏は立派にジャーナリストとしての仕事を果たしたと思う。

こんなことを書いても、門田氏の苦しみが軽くなることはないとわかっているのだが、鬼怒川の堤防決壊の報道をテレビで見ていたら、書いておきたくなった。災害の形態も、規模もまったく違うのだが。

▼今回の豪雨では、たくさんの機関のたくさんのヘリが役割を分担し、たくさんの人命を救った。


――――――――――
〈ミソコプター @miso_copter 
報道ヘリと救助ヘリは122.6MHz等で相互に連絡を取り合って空中衝突を回避している。要救助者を発見しては報告しているのは報道ヘリである。〉

〈Flying Zebra @f_zebra 
報道ヘリの飛行高度を制限し、定期的に広角に引いて撮影して広域の情報を確認したり、被災者の捜索、通報に協力するなど、過去の災害報道での教訓から定められた様々な決めごともうまく機能したようだ。不備を責め立てるのではなく、改善する姿勢が大切なのだと思う。〉

〈ミソコプター ‏@miso_copter
テレ朝報道ヘリが救助を邪魔したって言ってる人多いけど、実際は救助の陸自ヘリ(UH-60)高度50m、テレ朝ヘリ(EC135)300〜450m、NHKヘリ450〜600mで全ての辻褄が合う。つまり望遠レンズの圧縮効果による錯覚。feetにすれば1000,1500,2000のどれか〉
――――――――――


▼自衛隊をはじめとするレスキュー隊は、信じがたい精度で次々と人命を救っていった。すさまじい訓練の賜物なのだろう。自衛隊のこの「命を救う力」を、海外で必要とする人がたくさんいる。

鬼怒川決壊の次の日、「東日本大震災から4年半」の記事が各紙に載った。4年半経った今もなお、国内避難者の数は19万8513人にのぼる。


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2015年9月10日木曜日

ドローンの難民ルポ、独仏英の反応、読者投稿、えとせとら

【メディア草紙】1973 2015年9月10日(木)
■ドローンの難民ルポ、独仏英の反応、読者投稿、えとせとら■

【目次】
▼ドローンのルポ 高速道路を歩く難民たち
▼シリア難民の歴史、トルコ、レバノン
▼独仏英の反応は違う
▼読者投稿 AAさん


▼引き続き、欧州難民危機の基礎情報をメモしておく。


――――――――――
ニッケルスドルフ(オーストリア東部)=坂口裕彦記者〈シリア人のマザン・アイドさん(47)は「高速道路を10時間も歩いた。2時間は雨に打たれた。でも最後にドイツに行くことができればいいんだ」と語った。〉
毎日9月6日付1面トップ
――――――――――


上記記事は、ハンガリーからオーストリアまで歩いた人々に同行したルポである。
http://mainichi.jp/shimen/news/20150906ddm001030172000c.html

その人々を、BBCがドローンで俯瞰した。


――――――――――
BBC News Japan @bbcnewsjapan 
【BBC】しびれ切らした数千の移民、高速道路を歩いて国境へ 
https://www.youtube.com/watch?v=VRI4wgvqofA&feature=youtu.be

2015/09/06 に公開
ハンガリーのブダペストにたどり着いたシリアなどからの移民たち。鉄道での移動を阻止­されていましたが、しびれを切らした数千人は高速道路を歩いてオーストリア国境へ。当局は「安全確保のため」としてバスを提供しましたが、さらに多くの人が歩いて国境を目指しています。ドローンで撮影した映像とともにお伝えします。
――――――――――


▼ハンガリーからオーストリアの国境を超え、ニッケルスドルフからウィーンまで列車に乗り、さらにウィーンで乗り換えて、400キロ西に走ると、ドイツのミュンヘンに着く。そのミュンヘンを擁するバイエルン州の知事が、メルケル首相を批判しているわけだが。

▼翌7日付1面の毎日記事には、当たり前のコメントが載っている。当たり前のことでも、書かれないとなかなか想像できない。


――――――――――
ブダペスト=坂口裕彦記者〈「ここまでたどりついたのは、シリア国内でも経済力があった人たちだ。貧しい人は国外に出るのも難しいし、欧州まで来るなんて不可能だ」。生後4カ月の赤ちゃんをあやしながら国境の街、ヘゲシャロム行きの列車を待つモハメド・アブドラさん(28)は流ちょうな英語で語り始めた。〉
毎日9月7日付1面
――――――――――


▼ドイツは具体的にどう対応しているのかというと、〈EUで難民申請をするには、EU入りした時点で登録が必要。だが、独政府はシリア人に限って未登録を理由に追い返さない例外措置を示唆したのだ。〉毎日9月6日付

▼シリア難民の現状について。シリアの人口2200万人のうち、22万人が命を奪われ、国内で避難している人が760万人おり、国外に逃れた人(いわゆる難民)が408万9000人(難民支援協会のウェブサイト参照)。つまり人口の半分以上が避難民である。シリアは国家の体をなしていない。

▼日本で難民認定を得られたシリア人は、3人だそうだ。

▼すでにシリアの周辺国、トルコとレバノンには難民が溢れている。


――――――――――
〈シリアと欧州の間にあるトルコは既に200万人近いシリア難民を受け入れ、過去4年間に55億ドル(約6600億円)を費やした。難民流入による国境地帯の不安定化を懸念する声もあり、今年6月には治安部隊が放水で難民の流入を一時阻止する事件が起きた。

レバノンも人口の2割近くをシリア難民が占める状況を受けて、今年1月にシリア人入国希望者にビザ取得を義務付けた。マシュヌク内相は新政策導入時の記者会見で「もう十分だ。これ以上、難民を受け入れる余地はない」と漏らした。〉
毎日9月7日付
――――――――――


▼EUは今年の5月以降、対応策が変化した。


――――――――――
〈難民受け入れを巡っては、欧州委が5月、加盟国ごとに経済規模などに応じた義務的な受け入れ枠を配分する割当制度を提案した。しかし、難民の受け入れ実績の少ない東欧やバルト諸国を中心に加盟国の反発が強く、自主的な受け入れに転換。6月のEU首脳会議で、今後2年間でイタリアやギリシャに到着する4万人の難民の受け入れを目指すことで一致した。

ただ夏以降、さらに難民流入が急増し、問題が深刻化していることから、欧州委は義務的な割当制度を再提案する方向で検討する。新たにハンガリーに到着する難民の受け入れ分担も加え、受け入れ目標を従来の4倍の16万人に増やすよう追加提案する方針。〉
日経9月7日付
――――――――――


▼ここで重要なのはドイツ、フランス、イギリスの対応だ。今のところ「アランちゃんの写真」の衝撃もあり、西欧にはシリア難民を道義的に受け入れるべきだという論調が強いように見受けられるが、3カ国をみくらべると、もちろん世論が異なる。やはり大きく腑分けすると「ドイツとそれ以外」になる。

▼まず、ドイツ経済は難民ウェルカム。〈ドイツの副首相を務めるガブリエル経済・エネルギー相は7日、公共放送の番組の中で、「ドイツはこの先数年の間、年間50万人の難民を受け入れることが十分に可能だ」と述べました。その理由として、ガブリエル副首相は、好調な経済や労働力不足を挙げ、難民らの受け入れに伴う増税は必要ないとしています。〉NHK9月8日

しかし難民への攻撃は確実に増えている。


――――――――――
〈【ミュンヘン時事】難民施設で火災、5人けが=極右が放火か

DPA通信などによると、ドイツ南西部のバーデン・ビュルテンベルク州ロッテンブルクにある難民収容施設で7日未明、火災があり、難民ら5人がけがをした。極右勢力による放火の可能性もあり、警察が捜査している。施設には80人余りの難民が滞在していた。けが人は上階の窓から飛び降りて骨を折ったり、煙を吸ったりして病院に搬送された。

中部のテューリンゲン州エーベレーベンでも7日未明、難民受け入れ施設になる予定だった建物が焼けた。けが人はいなかった。警察報道官は「政治的動機に基づく放火」の疑いを指摘した。

放火など難民施設の被害は上半期だけで約200件に上り、昨年1年間の総数を上回っている。最近の難民殺到で、受け入れに反対する動きがさらに強まる恐れもある。〉
9月7日
――――――――――


▼いっぽうイギリスは?

――――――――――
BBC News Japan @bbcnewsjapan 9月7日
シリアやリビアからの難民受け入れを増やすべきかについて、BBC番組委託で4~6日にかけて1000人に電話で世論調査を行ったところ、現状維持か現状以下がいいという回答が計57%に。増やすべきという答えは40%でした(英語記事) 
https://twitter.com/BBCNews/status/640951441914503168
――――――――――


「受け入れ増やす」派は案外少ない。フランスも相変わらず国民戦線が元気いっぱい。


――――――――――
〈「低賃金で働く奴隷を募集」と難民受け入れの独を非難
仏極右ルペン党首

フランスの極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首は南部マルセイユで開いた党集会で6日、シリアなどからの難民を多数受け入れるドイツに対して「低賃金で働く奴隷を求めている」などと非難した。ロイター通信が伝えた。

報道によると、ルペン氏は「ドイツは自国の人口が伸び悩んでいると考え、低賃金の労働者を求め、大量の移民受け入れを通じて奴隷の雇用を続けている」と演説した。

2017年のフランス大統領選に関する最近の世論調査では、移民や難民受け入れに強く反対するルペン氏の支持率が社会党のオランド大統領らを上回り、決選投票に進むと予想されている。〉
共同9月8日付
――――――――――


▼なぜドイツがこんなに自信満々なのか。やはり毎日の解説がわかりやすかった。


――――――――――
〈独国内では受け入れに前向きな意見が多い。独第1公共テレビの世論調査では、59%が難民を受け入れるべきだと回答。内戦を逃れた難民の受け入れは96%が「正しい」とした。

背景には、これまでに大量の難民を受け入れてきた実績と、人手不足を難民受け入れで緩和できるというしたたかな計算がある。ドイツには第二次大戦直後、東欧を追われたドイツ人1000万人以上が逃れて来た。そのため、難民となった経験のある親族を持つ人も多い。ユーゴスラビア紛争中の1992年には43万人の難民申請を受けたこともあり、昨年も20万件の難民申請があった。

独労働社会省によると、好景気のドイツでは60万人の人手が不足。さらに、少子高齢化で今後10年間に労働人口は650万人減少すると予測される。ショイブレ財務相は5日、60億ユーロ(約8000億円)の今年の財政黒字を難民対策に充てる考えを示し、財政的にも対応可能だと表明した。〉
毎日9月7日付
――――――――――


▼読者のAAさんから、「ML civilsocietyforum」への投稿をこちらにも送っていただいた。


――――――――――
竹山様

難民問題についてのマガジン有難うございます。大変参考になります。他のMLに表記のような投稿がありそれに対して返信を書いたので元記事(英文)と一緒に転送します。参考になれば幸いです。

#Subject: [civilsociety-forum:8980] Why Boat Refugees Don't Fly! - Factpod
#1

https://www.youtube.com/watch?v=YO0IRsfrPQ4

Why Boat Refugees Don't Fly! - Factpod #16

Gapminder Foundation Gapminder Foundation

This shows you why the refugees crossing the mediterranean by boat, can't just  fly to Europe.

現在の難民問題はイラク戦争、アラブの春 の結果だとはいえないでしょうか?

欧米は民主化支援と言う名目で戦争を起こしたり内乱に軍事介入したりしました。しかし各国の民主化勢力は民衆の支持があまりなくむしろフセイン政権やカダフィ政権に弾圧されたイスラム原理主義勢力が支持を集めリビアなどで政権打倒の中心になったしシリアでも状況は同じです。

これをどう評価するかは難民問題を考える上で欠かせないでしょう。またこれは現在の安保法制、集団的自衛権の問題とも無関係ではありません。安倍政権は安保法制を中国や北朝鮮を念頭に置いていて場合によっては中国と戦争をしたいという気持ちがあるようですが現実問題としてそれは無いとおみます。

むしろ危険なのは中近東(もしかしたら中国も)で民主化要求運動が過激化してそれに民主化支援という名目で軍事介入する可能性です。もちろん常識的には民主化支援と集団的自衛権とは無関係ですがこれまでの安倍政権のやり方を見ていればそう言って安心できません。

そのためにもイラク戦争、アラブの春、さらにはウクライナ問題などでの「民主化」支援はなにだったのか総括が必要ではないでしょうか。
――――――――――


▼難民危機は欧州が自ら招いた、という評価がある。否定できない現実だ。
 “The migrant crisis in Europe is essentially self-inflicted,” said Lina Khatib, a research associate at the University of London and until recently the head of the Carnegie Middle East Center in Beirut.
INYT9月5日付

▼気になる点の一つは、この「欧州」という言葉に気をつけないといかん。「欧州」の中には西欧も中欧も東欧も南欧もある、ということ。

▼もう一つは、「西側」という時に、日本も入るのかどうか、ということ。当然、入る。


――――――――――
メディア草紙(竹山綴労のメモ) @offnote_
「難民認定、対象拡大の方針 法務省」朝日9月5日付1面トップ▼遅すぎ少なすぎ。やらないよりマシ。日本の難民申請者は2014年は5000人。認定は11人▼法務省は「日本はアフガンとイラクで戦争協力した」事実を知らないのだろう。国境も地続きでないし▼あと数年はこの恥知らず体制が続く。
――――――――――


池田香代子氏 @ikeda_kayoko の「にわかにシリア難民がフォーカスされているけれど、これまでもヨーロッパを目指す難民の奔流はアフガンから、イラクから、アフリカの各地から途切れる事なく続いている。クルド人というグループも。そして地理的にいま日本が最も考えるべきは、ミャンマーなどのロヒンギャではないかなあ」という意見もある。尤もだと思う。

いろいろメモしながらも、なかなか「我が事」として考えられない性(さが)なのだが、少なくとも「他人事」ではないと感じるわけです。この感じを失うと、ぼくの場合、「世界の中の日本」という視点も無くしてしまうだろうナ。


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2015年9月8日火曜日

ブレンドル、ギリシャの「スルー」、えとせとら

【メディア草紙】1972 2015年9月8日(火)
■ブレンドル、ギリシャの「スルー」、えとせとら■

【目次】
Blendle(ブレンドル)の英語版
▼ギリシャの「スルー」
▼ドイツ経済が強い理由
▼今後の難民流入ルート


▼Blendle(ブレンドル)の英語版が今年中に始まるそうだ。読売9月3日付▼楽しみ。いわばメディア版iTunes。ぼくも使ったことないが(オランダ語わかんねえ)、たぶん「自分でクーリエジャポンを編集する」ようなものではないだろうか。創業者のアレクザンダー・クロピング氏は28歳。日本語版はできないかナ。

このブレンドルというオランダのベンチャー企業は、朝日のグローブ8月2日付<米ニュースバトル>で知った。これはいい特集でした。「記事のバラ売り」で急成長しているわけだ。現在90の新聞、雑誌の記事が読めるそうで、しかも<価値がないと思った記事は「返品」できる>! じぇじぇ。

実際の返品率は5%。30万人超が登録。日に日に増えているだろう。共同創業者のマーティン・ブランケシュテイン氏は28歳。

▼ぼくは「クーリエ・ジャポン」が画期的な雑誌だと思うのだが、そしてできれば週刊で出してほしいのだが、ブレンドルのような商売が始まれば、いわば私家版の「クーリエ・ジャポン」ができるわけだ。

しかし、そこでは自分自身の「編集」の能力が問われるわけで、というか、すでに今、これまでの人類が経験したことのない圧倒的な情報量に囲まれているわけで、なんかそういう状況に対応した基礎教育、小学校からやったほうがいいんじゃねえかと思うわけです。「衣食住」に並ぶ、「知る」ということについての教育を。


▼引き続き、欧州難民危機。最悪のケースは、殺到する難民にまじって、「イスラーム国」に共鳴する人間が、あえて難民として欧州各国に入り、テロを起こす、という地獄絵図。しかし、日本の新幹線での焼身事件でわかるように、防ぐことは物理的に不可能だ。

だからイスラエルは難民受け入れを拒否した。


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〈イスラエルのネタニヤフ首相は6日、欧州各国に押し寄せるシリアなどからの難民への対応に関連し、「我々は不法移民やテロに対し、国境を管理しなければならない」と述べ、受け入れない考えを示した。

ネタニヤフ首相は閣議で「シリアやアフリカからの難民の人道的な悲劇に無関心ではない」としつつ、「非常に小さな国で、人口動態的、地理的な奥行きに欠ける。不法移民やテロリストが殺到することは許されない」と述べた。ネタニヤフ首相はヨルダンとの国境沿いでフェンス建設を始めたことも明らかにした。〉
朝日デジタル9月7日
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▼9月6日付、7日付の各紙で、いろいろな報道があった。

〈シリア北部アレッポから約50日かけて陸路ブダペストにたどりついたラマン・アブディさん(19)は行く先々でプリペイドのSIMカードを入手し、スマートフォンを使う。「知らない土地でも、GPS(全地球測位システム)で自分の場所を把握できる。必ずドイツに行く」と話す。〉毎日9月7日付【ブダペスト坂口裕彦、カイロ秋山信一、ローマ福島良典】

9月6日付、7日付ともに、毎日1面のルポはぐいぐいと読ませる内容だった。坂口裕彦記者。

▼各紙とも、やたらオーストリア東部の「ニッケルスドルフ」という地名が目に付くなか、ギリシャのレスボス島からのレポートが読売に載っていた。


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〈(ギリシャの)レスボス島には8月、島人口に等しい約9万人が上陸したという。4日夜、記者の目の前でゴムボートが到着した。シリア人男性は、ずぶぬれのまま地面に頭をこすりつけ、上陸を喜んだ。全長6メートルほとの小舟に乳児を含む約50人が乗っていた。〉
読売9月6日付、青木佐知子記者
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ちなみに〈レズビアンは、女性同士の恋愛を歌った古代ギリシャの女性詩人サッポーが住んだレスボス島に由来するといいます〉永易至文(ながやす・しぶん)氏の「虹色百話~性的マイノリティーへの招待」。知らなかった。

▼なぜ、ギリシャの島に難民が殺到したか。毎日のルクセンブルク=斎藤義彦記者が背景を説明している。


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〈ギリシャ、管理放棄で急増 周辺国に波及

(前略)当初、難民は南のルートを取り無政府状態のリビアから欧州を目指したが、転覆など危険が高すぎた。今夏、比較的安定したトルコから島伝いにギリシャに入るルートを試した難民が、ボートでの渡航距離が短いこともあり、比較的安全に到達できた情報が一気に広がり、難民が激増した。

EUでは最初に難民を受け入れた国が指紋などを登録するのが原則だが、数千人単位で波状的に訪れる難民の登録は小さな島では対処できなかった。

ギリシャで先月まで政権を担った最左派のチプラス前首相は債務危機を巡りEUと激しく対立。難民対策についてEUと協議する雰囲気はなく、難民の管理を放棄し「スルー(通過)」させた。(中略)

新たな対策が打ち出されないまま、難民の「スルー」はギリシャから北接する非EUのマケドニア、さらに北のセルビアに玉突き状に波及し、大勢の難民がハンガリーに行き着いたのが事態の流れだ。〉
毎日9月6日付
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▼で、ギリシャがスルーした影響で、玉突きでどえらいことになっているハンガリーは、ギリシャにではなく、ドイツにブチ切れている。〈ハンガリーのオルバン首相は難民が定住を望んでいるのは西欧だとして「これは欧州の問題ではなく、ドイツの問題だ」と反発している。〉朝日9月6日付

実際、難民はEUを目指しているのではなく、ドイツを目指している。ブダペスト駅で難民は「ドイツ! ドイツ!」「メルケル! メルケル!」と叫んだ。そしてEUの中で、西欧とそれ以外とで対立があり、ここでいう西欧は、ほぼイコールドイツを指す。つまり、EUは「ドイツが頂点」の集合体になっているわけだ。

▼ドイツ経済が圧倒的に強い理由を、東京のベルリン=宮本隆彦記者が簡潔にまとめている。


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〈ユーロ 通貨統合の明暗 還元なき繁栄 他国は批判

(前略)仮にギリシャが自前の通貨を使っていれば、経済の低迷は通貨安につながり、やがて輸出が回復するかもしれない。しかし欧州単一通貨のユーロではそうした「調節」は働きにくい。

一方のドイツは同じ理屈で「ユーロの恩恵」を享受してきた。輸出が伸びて貿易黒字が増えても、単一通貨ユーロのおかげで極端な通貨高にはならず、輸出の競争力を維持できる。実際、ドイツの貿易黒字は、1999年のユーロ創設後、急激に増加。2014年は過去最高の2170億ユーロ(約29兆3000億円)に達した。

絶好調の輸出に支えられ、税収も増加。2015年の予算は46年ぶりに新規の国債発行をせず「借金ゼロ」で組んだ。ショイブレ財務相は「持続可能な財政政策」と自賛したが、ギリシャからみれば「単一通貨でわれわれの国に輸出してもうけた結果」とも映る。〉
東京9月7日付
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▼そのドイツ国内からも、メルケル首相の難民受け入れに批判が出ている。〈DPA通信によると、ミュンヘンの地元当局報道担当者は6日、移民らの規模について「予想を超えた」とした上、「われわれは限界に達した」と語った。ミュンヘンが所在するバイエルン州のゼーホーファー州首相も同日、「ドイツだけで、いつまでも受け入れられない」と強調した。〉産経9月7日

▼難民は減らない。地中海ルートとバルカンルートをおさらいする記事が毎日に載っていた。


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〈陸路でドイツを目指す難民や移民が急増した背景には、政情不安のリビアから地中海を密航船でイタリアに向かう「地中海ルート」の危険度が高くなったことがある。イタリアが昨年10月に密航船を洋上で保護する作戦を中断したことで、海難事故が多発。今年1〜4月には約1800人の死者が出たため、バルカン半島経由でドイツに北上する「バルカンルート」を選ぶ難民が増えたのだ。

だが、危険がないわけではない。今年は3日までに102人が死亡した。遺体がトルコ側の海岸に打ち上げられたシリア難民の男児、アラン・クルディちゃん(3)の一家もこのルートでギリシャ・コス島を目指していた。〉
毎日9月7日付
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▼今後の流入ルートはどうなるのか。〈例えば「セルビアからクロアチアを経由したり、ルーマニアやウクライナからポーランドに抜けたりするルートが考えられる」。欧州連合(EU)の国境警備を担う欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)のモンクール報道官は日本経済新聞に明かした。〉9月7日付日経。

ハンガリーの国境フェンスは、悪徳仲介人へのボーナスだ(難民が悪徳仲介人に支払う金額を釣り上げるだけだ)、というコメントがどこかに載っていた。

難民は減らない。だから「根」を絶とうという話になる。


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〈難民危機の深刻化を受け、欧州主要国は対シリア政策見直しに乗り出した。

オズボーン英財務相はロイター通信に「アサド政権と過激派組織『イスラム国』(IS)のテロリストという問題の根本に取り組まなければならない」と語り、シリア空爆の可能性を改めて示唆。

仏紙ルモンドによると、オランド政権も、米国など有志国がシリア領内で実施しているIS掃討の空爆作戦への仏軍偵察機の参加を検討しているという。〉
毎日9月7日付
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▼最も冷静に、最も「効果」を生む方法を、「イスラーム国」の連中が企んでいる。


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竹山綴労


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