【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
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2014年5月2日金曜日

佐藤優の集団的自衛権論「今踏み込むのは絶対にダメ」

▼2014年4月22日付中日新聞に載った、佐藤優の集団的自衛権論に納得した(東京新聞は5月1日付)。もともと佐藤は集団的自衛権の行使に賛成している。しかし「今踏み込むのは絶対にダメです」と語る。なぜか。佐藤の論点は三つ。一つは「世界の中の日本」。二つは「安倍総理の内在的論理」。三つは「小松一郎内閣法制局長官」。

▼まず「世界の中の日本」。ロシアのクリミア併合である。「クリミア情勢をめぐって米ロの緊張がかつてなく高まっている。その中で、米国と密接なつながりがある日本が集団的自衛権の行使容認を表明すれば、国際社会に『日本はロシアと事を構えるのだな』と誤解されますよ」「ロシアからすれば日露戦争や旧日本軍のシベリア出兵の記憶を呼び覚ますことになり、北方領土周辺で日本漁船の拿捕(だほ)や銃撃が頻発するのは目に見えています」。言われてみれば、その通りだ。中国でも、ロシアでも、多くの人の想像を超える事態が進行している。

▼次に「安倍総理の内在的論理」。「信条を優先して国益を損ねる事態は、靖国神社参拝で懲りたと思っていたのですが…。先日の国際司法裁判所での調査捕鯨の敗訴も、日本が『国際社会の共通認識を持っていないのでは』との疑義を持たれていると読むべきです」。アメリカのオバマ大統領との共同記者会見を見ても、安倍総理はどうも自らの靖国神社参拝で国益を損ねたと思っていない可能性が高い。これは稿を改めて書く。

▼三つめの小松内閣法制局長官は、その「奇抜な言動」について。「憲法解釈をつかさどる重要な立場にいながら、野党の議員との怒鳴り合い騒動まで起こした。海外メディアの特派員も注目しているので、いずれ世界に発信されてしまいますよ」。まったくその通りだ。


▼そして「米ロが緊張し、議論を進める人にも問題がある状況下で解釈改憲に突き進むメリットが、私には分からない。意味が分からないということは不気味ですよ」と結ぶ。明快で、説得力がある。
佐藤優にしても憲法学者の小林節にしてもそうだが、「集団的自衛権の行使を認めるべし」と思っている人々のなかから異論が噴き出している現状が、どれほどの異常事態なのか、その社会の中にいると、麻痺してわからなくなるのかもしれない。

▼何年か前、「骨密度(こつみつど)」という言葉が流行ったが、上記の佐藤優のコメントを読んでいて「知恵密度(ちえみつど)」という言葉が思い浮かんだ。彼の政治・外交問題をめぐるコメントは、常に「知恵密度」が濃い。

佐藤優と與那覇潤(『中国化する日本』)との対談本を企画すれば、間違いなく面白いものになるだろう。もう誰かやってるかもね。