【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2014年12月10日水曜日

『国家と秘密』を読む~実害編その1


この国では、
国の命令で戦地に赴いて戦死した兵士たちの情報すら、
虫食いにしか残っていないありさまなのです。

 『国家と秘密 隠される公文書』34頁
久保亨・瀬畑源著、集英社新書、2014年


【PUBLICITY 1959】2014年12月10日(水)
■『国家と秘密』~実害編その1■
freespeech21@yahoo.co.jp


▼2014年を象徴する漢字を一文字選ぶとすれば、断然、

「秘」

でしょうナ。安倍晋三総理(岸信介の孫)や麻生太郎副総理(吉田茂の孫)の暴走が続いているから「孫」でもいいけど。孫だとあんまり迫力ないもんね。

▼きょう12月10日、特定秘密保護法が施行される。今年、国政のレベルでとんでもない暴走が続いたが、最悪の事例がこの法律の施行だった。全国紙では毎日新聞が粘り強く批判を続けている。

▼今年読んだ本からどれをオススメしようかと考えたが、とりあえず一番最近読んだ本を。前号で予告したとおり久保亨・瀬畑源の共著『国家と秘密 隠される公文書』 (集英社新書、編集者は伊藤直樹)だ。

本誌で集英社新書といえば、「水の民営化」問題で佐久間智子さんにロングインタビューした際、基本書として読み込んだ『「水」戦争の世紀』(モード・バーロウ、トニー・クラーク)である。しびれる傑作だった。

『国家と秘密』は『「水」戦争の世紀』と同じく、読んで、いったん解体して、自分の手で再構成するに値する良書だ。そうすることで、「国家と公文書と国民」にまつわる実像が浮き彫りになる。具体的には、

・国が情報を隠すことによる「実害」編
・法の網をかいくぐって隠す「カラクリ」編
・「その他」編

の3つの括りに分けてみたい。まず今号は「実害」編。


▼2014年10月に発刊された『国家と秘密』は、もちろん特定秘密保護法に対する批判に重きが置かれているわけだが、「知る権利」を考える射程距離がとても長いところに特長がある。

同法が強行採決された前後、「国民の知る権利」が云々という批判がたくさんあったわけだが、本書の劈頭(へきとう)、いきなり先入見を叩き壊される。

そもそも犯されるというに足るほどの知る権利を、戦後日本の国民は、持っていたのでしょうか?〉(13頁)

本書の前半は、この強烈な一文の証明に充てられる。いわば「公文書隠しから見た近現代日本史」、明治以降、日本という国家が様々な情報を隠したことによって、日本に住む人々がどのような実害をこうむったのかを示す実例のオンパレードである。

以下、内容の要約と該当頁数を列挙しよう。日本の「国益」とは「日本国民にとっての利益」【ではない】ことが、あらためてよくわかる。

無いも同然の経済財政文書 15頁~

〈例えば水質汚染や大気汚染による健康被害に関し、行政関係機関と一人ひとりの担当者が、どのような情報に基づきどのような政策判断をしてきたか、責任の所在はどこにあるのかということは、大部分が闇に包まれてきましたし、今もそうなのです〉(16頁)

薬害エイズ事件 16頁

水俣病 17頁

戦後外交文書の公開が遅すぎる 18頁

1931年、満州事変が勃発した時の情報隠し 19頁~

〈(1931年9月18日の)柳条湖での鉄道爆破事件が出先の日本軍(満洲駐屯の関東軍)による謀略であったことは、すでに史実として明白になっています。

日本の権益であった鉄道線路(南満洲鉄道株式会社線)を日本軍自身が爆破し、それを中国軍のしわざと偽り、その虚偽を口実に「中国を懲らしめる」軍事行動を開始したのでした。軍はそのことを秘密にしました。

しかし、爆破が日本軍の謀略ではないかという観測は、当時、外交官などからの連絡により日本政府の中にも流れていたのです。にもかかわらず、その情報は戦後にいたるまで公開されませんでした。(中略)情報がきちんと公開されていれば、日本は戦争への道に踏み込まずに済んだかもしれないのです〉(20頁)

1941年、太平洋戦争前夜の戦力比較 21頁
加藤陽子の研究(朝日新聞2013年12月3日付)に拠る

沖縄返還密約 21頁

2周遅れの情報公開
他の国と比べて
公文書館整備の遅れ(23頁)と
情報公開法制定の遅れ(25頁)がひどい。

公文書を焼く実例 31頁

そもそも太平洋戦争に負けた時、日本政府は国家にとって不利になるおそれのある公文書を焼くよう、正式に命令している。彼らは【公文書を廃棄せよと閣議決定していた】のだ。命令はじつに市町村レベルまで幅広く及んだ。今号冒頭の引用は、その一つの結果である。無惨なものだ。

一読、あまりにビックリしたので、引用されている論文の一つ「敗戦と公文書廃棄 植民地・占領期における実態」を読んで確かめてみましたよ。(加藤聖文、「史料館研究紀要」第33号、105頁、平成14年3月)。

〈公文書廃棄に関しては、一九四五年八月一四日の閣議によって機密文書の廃棄が決定され、これに基づいて各官庁では組織的かつ大規模な文書焼却が行われた。特に陸海軍では同日中に陸軍大臣の命令によって高級副官名で全陸軍部隊に対し「各部隊の保有する機秘密書類は速かに焼却」することを指令し、末端部隊に至るまで徹底した文書焼却が行われた〉(105頁)

うへー。しかも、というか、当然、というか、〈この指令は在京部隊に対しては電話、その他は電報によって伝達し、電報および原稿は焼却された。陸海軍における文書焼却については、原剛「陸海軍文書の焼却と残存」(『日本歴史』第五九八号、一九九八年三月)で紹介されているが、文書の焼却指令に関しては関係者の証言と焼却指令の写しがわずかに残存するのみであり、焼却指令の現物は確認されていないとのことである。〉(135頁)

▼憲兵隊では、なんと「防空壕の通風を利用すれば早く燃えるよ」とご丁寧なアドバイスまでしている。「防空壕等内に於て火力による自然的通風を利用し逐次投入するを早きとす」(憲電第一二〇五号)。

〈さらに、敗戦後の二〇日には、机・抽斗(ひきだし)の奥に付着したもの、焼却場の焼け残り、私物に綴じ込まれたもの、私宅にある書類・手紙類などに至るまで全てを対象とした検査によって「一片の残紙」も残さないように焼却の徹底化が図られた〉(106頁)

これじゃあ軍にとって不利な文書が残っているほうがおかしいよね。そのうえで今、歴史修正主義者たちは「公文書絶対主義」とでもいうべき建前をかざし、たとえば性奴隷の証言者をウソつきだと決めつけ、歴史の真実を歪めようとご執心なわけだ。

▼これで「実害」編の半分。長くなっちゃうので、続きは次号で。


▼本誌をEマガジンで登録されている方には、「まぐまぐ!」か「メルマ!」での登録をオススメします。

まぐまぐ
http://search.mag2.com/MagSearch.do?keyword=publicity

メルマ
http://melma.com/backnumber_163088/


frespeech21@yahoo.co.jp
竹山綴労


(読者登録数)
・Eマガジン 4700部
・まぐまぐ 96部
・メルマ! 73部
・AMDS 22部