【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2015年10月14日水曜日

イスラム国と核兵器と第2イスラム国


【メディア草紙】1985 2015年10月14日(水)

■イスラム国と核兵器と第2イスラム国■


▼「核」と「イスラム国」が同じ見出しに入っている新聞記事を初めて読んだ。10月8日付けのジャパンタイムズの1面に、

Nuclear smugglers seek sales to Islamic terrorists

という見出しで、APの記事が載っていた。モルドバの首都、キシナウのダンスクラブ兼スシバー(寿司!)が闇取引の舞台だったそうだ。


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AP INVESTIGATION: Nuclear black market seeks IS extremists

By DESMOND BUTLER and VADIM GHIRDA
 Oct. 7, 2015 3:45 PM

CHISINAU, Moldova (AP) — Over the pulsating beat at an exclusive nightclub, the arms smuggler made his pitch to a client: 2.5 million euros for enough radioactive cesium to contaminate several city blocks.

It was earlier this year, and the two men were plotting their deal at an unlikely spot: the terrace of Cocos Prive, a dance club and sushi bar in Chisinau, the capital of Moldova.
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▼このAP通信の記事は日本語メディアで後追いされていた。以下は共同とCNN。


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〈2015.10.8 09:45 産経
ロシア「大佐」が暗躍? 中東へ放射性物質の売却狙う モルドバ当局が阻止4回

旧ソ連のモルドバで、ロシアとつながりのある犯罪グループが、「汚い爆弾」の原料となる放射性物質を中東の過激派に売却しようと計画、過去5年間にモルドバの捜査当局が少なくとも4回取引を阻止していたことが分かった。AP通信が7日、報じた。

モルドバ捜査当局は、米連邦捜査局(FBI)と協力し取り締まりを継続。最近では今年2月、大量のセシウムを過激派組織「イスラム国」の関係者に売りつけようとしていたのを阻止した。

2011年には、グループの指導者で「大佐」と呼ばれる男が、兵器級の濃度を持つウラン235と汚い爆弾の設計図をスーダン出身の男に売ろうとしていた。APによると、モルドバ当局は「大佐」がソ連国家保安委員会(KGB)の後身であるロシア連邦保安局(FSB)に属しているとみている。「大佐」は既に逃走したという。(共同)〉
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▼次はCNN。最後の段落の記事が恐ろしい。


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〈モルドバでウランなど核密輸を3度阻止、米FBI支援で
2015.10.08 Thu posted at 17:51

(CNN) 旧ソ連のモルドバのオレグ・バラン内相は7日、米連邦捜査局(FBI)がモルドバでのおとり捜査などで過去5年で3度にわたり核や放射性物質の密輸阻止を支援していた事実を明らかにした。

この捜査の推移に詳しい米治安執行機関当局者は、密輸の企てにイスラム過激派は絡んでいなかったと述べた。ただ、核物質が「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」などの過激派に売却される懸念があったとも明かした。

モルドバでの事例は、兵器転用の恐れもある核物質が闇市場で売却されることを防ぐ努力の一端を垣間見せたとも説明した。

同国での事件摘発は、AP通信が最初に報じていた。

米国務省のカービー報道官は、モルドバでの事件捜査でロシア当局とも協力したと述べた。捜査の詳細や続行の有無などは明らかにしなかったが、今回のような問題はロシア当局と通常連絡し合っていると語った。

(中略)バラン内相はFBIが捜査に協力して摘発した3件の内容を説明。直近の事件では今年2月、モルドバの首都キシニョフで放射性物質セシウム135を500グラム売り付けようとしていたモルドバ人2人を逮捕していた。同物質83グラムを見本として10万ユーロで売りさばいたことを突き止め、逮捕につなげていた。

この他、2010年7月と11年にも密輸を阻止。11年の事件では、モルドバ独立派の活動が続く地方で入手したウラン235約1キロの売却を謀っていた7人を逮捕していた。この事件ではおとり捜査官にウラン235の少量を売り付けていたという。

国際原子力機関(IAEA)によると、核もしくは放射性物質の盗難や紛失は1993年から2013年の間に計664件発生。このうち最終的に売却された件数は不明となっている。
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▼10月10日、トルコの首都アンカラで自殺テロが起き、エルサレム旧市街(イスラム教とユダヤ教の聖地)も、先月からとても緊迫している。どうも、想像が追いつかない事態が起こっている。

パラパラと立ち読みした本に、今後、イスラム国が化学兵器を持つケースが最悪だと書いてあったが、すでにそうなっている。先に引用したジャパンタイムズと一緒に売っているINYTの、同じく10月8日付の1面トップは、イスラム国が化学兵器を使っているという記事だった。

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8 Oct 2015 International New York Times Asia
BY C. J. CHIVERS

The results of an ISIS chemical attack
Shelling leaves a family in Syria experiencing agonizing pain and loss
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▼イスラム国をめぐるニュースには、悪いニュースしかない。

INYTの9月28日付には、

Thousands Enter Syria to Join ISIS Despite Global Efforts

という記事が載っていた。2011年以降、100カ国から3万人が、イスラム国の兵士として、イラクやシリアに入っているという。


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By ERIC SCHMITT and SOMINI SENGUPTASEPT. 26, 2015

President Obama will take stock of the international campaign to counter the Islamic State at the United Nations on Tuesday, a public accounting that comes as American intelligence analysts have been preparing a confidential assessment that concludes that nearly 30,000 foreign fighters have traveled to Iraq and Syria from more than 100 countries since 2011. A year ago, the same officials estimated that flow to be about 15,000 combatants from 80 countries, mostly to join the Islamic State.
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▼イスラム国が使っている生物兵器も、使うかもしれない核兵器も、100カ国から集まっている3万人のイスラム国兵士も、悪い夢ではない。ニッポンにできることは何だろう。

産経新聞9月16日付に、佐藤優氏のこんな提言が載っていた。


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〈中国については尖閣をめぐる議論。中国の海軍による拡張主義の産物。中国海軍は日清戦争を最後に本格的な近代戦をしていない。だから行け行けどんどんで勇ましい。それに対して陸軍はすごく慎重。中越戦争で大負けしているからだ。

中国は大陸国家。弱点は西にある。タジキスタン、キルギスタンと、新疆ウイグル自治区がつながる形で第2イスラム国ができる可能性が現実にある。それが回族に広がり、中国の3分の2くらいがガタガタになる危険性がある。

日本はその点について中国とインテリジェンス協力を進められれば、中国は海上での冒険政策はできなくなる。双方にプラスになる戦略対話を行うことで、早く中国の海軍を引かせることができる。こういうシナリオをとるべきだ。〉
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▼朝日新聞の10月2日付には、イスラム国の元戦闘員3人(いずれもシリアで拘束中)に対するインタビューが載っていた。

3人の出身地が興味深い。このうち22歳の元戦闘員は〈キルギス第2の都市オシ出身。イスラム教スンニ派の家庭に育ち、2011年、スンニ派の最高学府、エジプト・カイロのアズハル大学に進学。イスラムの指導者を目指し、イスラム法学などを学んでいた。13年春、カイロ郊外のモスク(イスラム礼拝所)で過激派と出会い、「スンニ派を虐殺するアサド政権打倒を」と、シリアでの「ジハード」に誘われた。〉

もう一人(20歳)もキルギス出身。3人目(35歳)は〈トルクメニスタンの首都アシガバートでタクシー運転手をしていた〉。2013年2月に、いとこから誘われたという。

つまり、キルギス、キルギス、トルクメニスタンだ。第2イスラム国は絵空事ではないと感じさせる記事だった。

▼佐藤氏はいま、この「第2イスラム国」の危機を繰り返している。たとえば「WiLL」2015年9月号。〈日本は、中国と新疆ウイグル自治区、中央アジアを横断する「第二イスラム国」形成の危険性について、戦略対話を行うことが重要だと僕は思う。西部国境方面におけるイスラム原理主義過激派の台頭を阻止することで中国と協力することは、日本の国益にも適うはずだ〉(「猫はなんでも知っている」)

この号で佐藤氏は、あえてかなり深いところまで踏み込んだ情報を明かすことによって、「この件、ほんとにヤバイんだよ」というメッセージを発信している。くわしくは本物を手にとってみられることをオススメする。この連載は佐藤氏本人ではなく、佐藤氏の飼い猫が執筆し、飼い主のパソコンから旬の情報を公開するかたちをとっているので、面白い。

▼また、ずいぶん前にたまたま放送大学を見て、たまたま放映していた伊勢崎賢治氏(名著『武装解除』の著者)の講座で初めて知ったのだが、「セカンドトラック」という外交形態がある。非公式だが、実効力のある、民間外交のことだ。

たとえば伊勢崎氏がこれまでパキスタンなどで尽力してきたような、彼我の「大学」を拠点にしたセカンドトラック外交の場をつくれないものだろうか。

首相官邸は、そもそも「国家」だけでは対応不能の出来事が、今、起きている、という現実に気づいているだろうか。


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竹山綴労


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