【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2015年9月8日火曜日

ブレンドル、ギリシャの「スルー」、えとせとら

【メディア草紙】1972 2015年9月8日(火)
■ブレンドル、ギリシャの「スルー」、えとせとら■

【目次】
Blendle(ブレンドル)の英語版
▼ギリシャの「スルー」
▼ドイツ経済が強い理由
▼今後の難民流入ルート


▼Blendle(ブレンドル)の英語版が今年中に始まるそうだ。読売9月3日付▼楽しみ。いわばメディア版iTunes。ぼくも使ったことないが(オランダ語わかんねえ)、たぶん「自分でクーリエジャポンを編集する」ようなものではないだろうか。創業者のアレクザンダー・クロピング氏は28歳。日本語版はできないかナ。

このブレンドルというオランダのベンチャー企業は、朝日のグローブ8月2日付<米ニュースバトル>で知った。これはいい特集でした。「記事のバラ売り」で急成長しているわけだ。現在90の新聞、雑誌の記事が読めるそうで、しかも<価値がないと思った記事は「返品」できる>! じぇじぇ。

実際の返品率は5%。30万人超が登録。日に日に増えているだろう。共同創業者のマーティン・ブランケシュテイン氏は28歳。

▼ぼくは「クーリエ・ジャポン」が画期的な雑誌だと思うのだが、そしてできれば週刊で出してほしいのだが、ブレンドルのような商売が始まれば、いわば私家版の「クーリエ・ジャポン」ができるわけだ。

しかし、そこでは自分自身の「編集」の能力が問われるわけで、というか、すでに今、これまでの人類が経験したことのない圧倒的な情報量に囲まれているわけで、なんかそういう状況に対応した基礎教育、小学校からやったほうがいいんじゃねえかと思うわけです。「衣食住」に並ぶ、「知る」ということについての教育を。


▼引き続き、欧州難民危機。最悪のケースは、殺到する難民にまじって、「イスラーム国」に共鳴する人間が、あえて難民として欧州各国に入り、テロを起こす、という地獄絵図。しかし、日本の新幹線での焼身事件でわかるように、防ぐことは物理的に不可能だ。

だからイスラエルは難民受け入れを拒否した。


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〈イスラエルのネタニヤフ首相は6日、欧州各国に押し寄せるシリアなどからの難民への対応に関連し、「我々は不法移民やテロに対し、国境を管理しなければならない」と述べ、受け入れない考えを示した。

ネタニヤフ首相は閣議で「シリアやアフリカからの難民の人道的な悲劇に無関心ではない」としつつ、「非常に小さな国で、人口動態的、地理的な奥行きに欠ける。不法移民やテロリストが殺到することは許されない」と述べた。ネタニヤフ首相はヨルダンとの国境沿いでフェンス建設を始めたことも明らかにした。〉
朝日デジタル9月7日
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▼9月6日付、7日付の各紙で、いろいろな報道があった。

〈シリア北部アレッポから約50日かけて陸路ブダペストにたどりついたラマン・アブディさん(19)は行く先々でプリペイドのSIMカードを入手し、スマートフォンを使う。「知らない土地でも、GPS(全地球測位システム)で自分の場所を把握できる。必ずドイツに行く」と話す。〉毎日9月7日付【ブダペスト坂口裕彦、カイロ秋山信一、ローマ福島良典】

9月6日付、7日付ともに、毎日1面のルポはぐいぐいと読ませる内容だった。坂口裕彦記者。

▼各紙とも、やたらオーストリア東部の「ニッケルスドルフ」という地名が目に付くなか、ギリシャのレスボス島からのレポートが読売に載っていた。


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〈(ギリシャの)レスボス島には8月、島人口に等しい約9万人が上陸したという。4日夜、記者の目の前でゴムボートが到着した。シリア人男性は、ずぶぬれのまま地面に頭をこすりつけ、上陸を喜んだ。全長6メートルほとの小舟に乳児を含む約50人が乗っていた。〉
読売9月6日付、青木佐知子記者
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ちなみに〈レズビアンは、女性同士の恋愛を歌った古代ギリシャの女性詩人サッポーが住んだレスボス島に由来するといいます〉永易至文(ながやす・しぶん)氏の「虹色百話~性的マイノリティーへの招待」。知らなかった。

▼なぜ、ギリシャの島に難民が殺到したか。毎日のルクセンブルク=斎藤義彦記者が背景を説明している。


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〈ギリシャ、管理放棄で急増 周辺国に波及

(前略)当初、難民は南のルートを取り無政府状態のリビアから欧州を目指したが、転覆など危険が高すぎた。今夏、比較的安定したトルコから島伝いにギリシャに入るルートを試した難民が、ボートでの渡航距離が短いこともあり、比較的安全に到達できた情報が一気に広がり、難民が激増した。

EUでは最初に難民を受け入れた国が指紋などを登録するのが原則だが、数千人単位で波状的に訪れる難民の登録は小さな島では対処できなかった。

ギリシャで先月まで政権を担った最左派のチプラス前首相は債務危機を巡りEUと激しく対立。難民対策についてEUと協議する雰囲気はなく、難民の管理を放棄し「スルー(通過)」させた。(中略)

新たな対策が打ち出されないまま、難民の「スルー」はギリシャから北接する非EUのマケドニア、さらに北のセルビアに玉突き状に波及し、大勢の難民がハンガリーに行き着いたのが事態の流れだ。〉
毎日9月6日付
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▼で、ギリシャがスルーした影響で、玉突きでどえらいことになっているハンガリーは、ギリシャにではなく、ドイツにブチ切れている。〈ハンガリーのオルバン首相は難民が定住を望んでいるのは西欧だとして「これは欧州の問題ではなく、ドイツの問題だ」と反発している。〉朝日9月6日付

実際、難民はEUを目指しているのではなく、ドイツを目指している。ブダペスト駅で難民は「ドイツ! ドイツ!」「メルケル! メルケル!」と叫んだ。そしてEUの中で、西欧とそれ以外とで対立があり、ここでいう西欧は、ほぼイコールドイツを指す。つまり、EUは「ドイツが頂点」の集合体になっているわけだ。

▼ドイツ経済が圧倒的に強い理由を、東京のベルリン=宮本隆彦記者が簡潔にまとめている。


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〈ユーロ 通貨統合の明暗 還元なき繁栄 他国は批判

(前略)仮にギリシャが自前の通貨を使っていれば、経済の低迷は通貨安につながり、やがて輸出が回復するかもしれない。しかし欧州単一通貨のユーロではそうした「調節」は働きにくい。

一方のドイツは同じ理屈で「ユーロの恩恵」を享受してきた。輸出が伸びて貿易黒字が増えても、単一通貨ユーロのおかげで極端な通貨高にはならず、輸出の競争力を維持できる。実際、ドイツの貿易黒字は、1999年のユーロ創設後、急激に増加。2014年は過去最高の2170億ユーロ(約29兆3000億円)に達した。

絶好調の輸出に支えられ、税収も増加。2015年の予算は46年ぶりに新規の国債発行をせず「借金ゼロ」で組んだ。ショイブレ財務相は「持続可能な財政政策」と自賛したが、ギリシャからみれば「単一通貨でわれわれの国に輸出してもうけた結果」とも映る。〉
東京9月7日付
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▼そのドイツ国内からも、メルケル首相の難民受け入れに批判が出ている。〈DPA通信によると、ミュンヘンの地元当局報道担当者は6日、移民らの規模について「予想を超えた」とした上、「われわれは限界に達した」と語った。ミュンヘンが所在するバイエルン州のゼーホーファー州首相も同日、「ドイツだけで、いつまでも受け入れられない」と強調した。〉産経9月7日

▼難民は減らない。地中海ルートとバルカンルートをおさらいする記事が毎日に載っていた。


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〈陸路でドイツを目指す難民や移民が急増した背景には、政情不安のリビアから地中海を密航船でイタリアに向かう「地中海ルート」の危険度が高くなったことがある。イタリアが昨年10月に密航船を洋上で保護する作戦を中断したことで、海難事故が多発。今年1〜4月には約1800人の死者が出たため、バルカン半島経由でドイツに北上する「バルカンルート」を選ぶ難民が増えたのだ。

だが、危険がないわけではない。今年は3日までに102人が死亡した。遺体がトルコ側の海岸に打ち上げられたシリア難民の男児、アラン・クルディちゃん(3)の一家もこのルートでギリシャ・コス島を目指していた。〉
毎日9月7日付
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▼今後の流入ルートはどうなるのか。〈例えば「セルビアからクロアチアを経由したり、ルーマニアやウクライナからポーランドに抜けたりするルートが考えられる」。欧州連合(EU)の国境警備を担う欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)のモンクール報道官は日本経済新聞に明かした。〉9月7日付日経。

ハンガリーの国境フェンスは、悪徳仲介人へのボーナスだ(難民が悪徳仲介人に支払う金額を釣り上げるだけだ)、というコメントがどこかに載っていた。

難民は減らない。だから「根」を絶とうという話になる。


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〈難民危機の深刻化を受け、欧州主要国は対シリア政策見直しに乗り出した。

オズボーン英財務相はロイター通信に「アサド政権と過激派組織『イスラム国』(IS)のテロリストという問題の根本に取り組まなければならない」と語り、シリア空爆の可能性を改めて示唆。

仏紙ルモンドによると、オランド政権も、米国など有志国がシリア領内で実施しているIS掃討の空爆作戦への仏軍偵察機の参加を検討しているという。〉
毎日9月7日付
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▼最も冷静に、最も「効果」を生む方法を、「イスラーム国」の連中が企んでいる。


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竹山綴労


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