【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2015年9月10日木曜日

ドローンの難民ルポ、独仏英の反応、読者投稿、えとせとら

【メディア草紙】1973 2015年9月10日(木)
■ドローンの難民ルポ、独仏英の反応、読者投稿、えとせとら■

【目次】
▼ドローンのルポ 高速道路を歩く難民たち
▼シリア難民の歴史、トルコ、レバノン
▼独仏英の反応は違う
▼読者投稿 AAさん


▼引き続き、欧州難民危機の基礎情報をメモしておく。


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ニッケルスドルフ(オーストリア東部)=坂口裕彦記者〈シリア人のマザン・アイドさん(47)は「高速道路を10時間も歩いた。2時間は雨に打たれた。でも最後にドイツに行くことができればいいんだ」と語った。〉
毎日9月6日付1面トップ
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上記記事は、ハンガリーからオーストリアまで歩いた人々に同行したルポである。
http://mainichi.jp/shimen/news/20150906ddm001030172000c.html

その人々を、BBCがドローンで俯瞰した。


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BBC News Japan @bbcnewsjapan 
【BBC】しびれ切らした数千の移民、高速道路を歩いて国境へ 
https://www.youtube.com/watch?v=VRI4wgvqofA&feature=youtu.be

2015/09/06 に公開
ハンガリーのブダペストにたどり着いたシリアなどからの移民たち。鉄道での移動を阻止­されていましたが、しびれを切らした数千人は高速道路を歩いてオーストリア国境へ。当局は「安全確保のため」としてバスを提供しましたが、さらに多くの人が歩いて国境を目指しています。ドローンで撮影した映像とともにお伝えします。
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▼ハンガリーからオーストリアの国境を超え、ニッケルスドルフからウィーンまで列車に乗り、さらにウィーンで乗り換えて、400キロ西に走ると、ドイツのミュンヘンに着く。そのミュンヘンを擁するバイエルン州の知事が、メルケル首相を批判しているわけだが。

▼翌7日付1面の毎日記事には、当たり前のコメントが載っている。当たり前のことでも、書かれないとなかなか想像できない。


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ブダペスト=坂口裕彦記者〈「ここまでたどりついたのは、シリア国内でも経済力があった人たちだ。貧しい人は国外に出るのも難しいし、欧州まで来るなんて不可能だ」。生後4カ月の赤ちゃんをあやしながら国境の街、ヘゲシャロム行きの列車を待つモハメド・アブドラさん(28)は流ちょうな英語で語り始めた。〉
毎日9月7日付1面
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▼ドイツは具体的にどう対応しているのかというと、〈EUで難民申請をするには、EU入りした時点で登録が必要。だが、独政府はシリア人に限って未登録を理由に追い返さない例外措置を示唆したのだ。〉毎日9月6日付

▼シリア難民の現状について。シリアの人口2200万人のうち、22万人が命を奪われ、国内で避難している人が760万人おり、国外に逃れた人(いわゆる難民)が408万9000人(難民支援協会のウェブサイト参照)。つまり人口の半分以上が避難民である。シリアは国家の体をなしていない。

▼日本で難民認定を得られたシリア人は、3人だそうだ。

▼すでにシリアの周辺国、トルコとレバノンには難民が溢れている。


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〈シリアと欧州の間にあるトルコは既に200万人近いシリア難民を受け入れ、過去4年間に55億ドル(約6600億円)を費やした。難民流入による国境地帯の不安定化を懸念する声もあり、今年6月には治安部隊が放水で難民の流入を一時阻止する事件が起きた。

レバノンも人口の2割近くをシリア難民が占める状況を受けて、今年1月にシリア人入国希望者にビザ取得を義務付けた。マシュヌク内相は新政策導入時の記者会見で「もう十分だ。これ以上、難民を受け入れる余地はない」と漏らした。〉
毎日9月7日付
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▼EUは今年の5月以降、対応策が変化した。


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〈難民受け入れを巡っては、欧州委が5月、加盟国ごとに経済規模などに応じた義務的な受け入れ枠を配分する割当制度を提案した。しかし、難民の受け入れ実績の少ない東欧やバルト諸国を中心に加盟国の反発が強く、自主的な受け入れに転換。6月のEU首脳会議で、今後2年間でイタリアやギリシャに到着する4万人の難民の受け入れを目指すことで一致した。

ただ夏以降、さらに難民流入が急増し、問題が深刻化していることから、欧州委は義務的な割当制度を再提案する方向で検討する。新たにハンガリーに到着する難民の受け入れ分担も加え、受け入れ目標を従来の4倍の16万人に増やすよう追加提案する方針。〉
日経9月7日付
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▼ここで重要なのはドイツ、フランス、イギリスの対応だ。今のところ「アランちゃんの写真」の衝撃もあり、西欧にはシリア難民を道義的に受け入れるべきだという論調が強いように見受けられるが、3カ国をみくらべると、もちろん世論が異なる。やはり大きく腑分けすると「ドイツとそれ以外」になる。

▼まず、ドイツ経済は難民ウェルカム。〈ドイツの副首相を務めるガブリエル経済・エネルギー相は7日、公共放送の番組の中で、「ドイツはこの先数年の間、年間50万人の難民を受け入れることが十分に可能だ」と述べました。その理由として、ガブリエル副首相は、好調な経済や労働力不足を挙げ、難民らの受け入れに伴う増税は必要ないとしています。〉NHK9月8日

しかし難民への攻撃は確実に増えている。


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〈【ミュンヘン時事】難民施設で火災、5人けが=極右が放火か

DPA通信などによると、ドイツ南西部のバーデン・ビュルテンベルク州ロッテンブルクにある難民収容施設で7日未明、火災があり、難民ら5人がけがをした。極右勢力による放火の可能性もあり、警察が捜査している。施設には80人余りの難民が滞在していた。けが人は上階の窓から飛び降りて骨を折ったり、煙を吸ったりして病院に搬送された。

中部のテューリンゲン州エーベレーベンでも7日未明、難民受け入れ施設になる予定だった建物が焼けた。けが人はいなかった。警察報道官は「政治的動機に基づく放火」の疑いを指摘した。

放火など難民施設の被害は上半期だけで約200件に上り、昨年1年間の総数を上回っている。最近の難民殺到で、受け入れに反対する動きがさらに強まる恐れもある。〉
9月7日
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▼いっぽうイギリスは?

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BBC News Japan @bbcnewsjapan 9月7日
シリアやリビアからの難民受け入れを増やすべきかについて、BBC番組委託で4~6日にかけて1000人に電話で世論調査を行ったところ、現状維持か現状以下がいいという回答が計57%に。増やすべきという答えは40%でした(英語記事) 
https://twitter.com/BBCNews/status/640951441914503168
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「受け入れ増やす」派は案外少ない。フランスも相変わらず国民戦線が元気いっぱい。


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〈「低賃金で働く奴隷を募集」と難民受け入れの独を非難
仏極右ルペン党首

フランスの極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首は南部マルセイユで開いた党集会で6日、シリアなどからの難民を多数受け入れるドイツに対して「低賃金で働く奴隷を求めている」などと非難した。ロイター通信が伝えた。

報道によると、ルペン氏は「ドイツは自国の人口が伸び悩んでいると考え、低賃金の労働者を求め、大量の移民受け入れを通じて奴隷の雇用を続けている」と演説した。

2017年のフランス大統領選に関する最近の世論調査では、移民や難民受け入れに強く反対するルペン氏の支持率が社会党のオランド大統領らを上回り、決選投票に進むと予想されている。〉
共同9月8日付
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▼なぜドイツがこんなに自信満々なのか。やはり毎日の解説がわかりやすかった。


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〈独国内では受け入れに前向きな意見が多い。独第1公共テレビの世論調査では、59%が難民を受け入れるべきだと回答。内戦を逃れた難民の受け入れは96%が「正しい」とした。

背景には、これまでに大量の難民を受け入れてきた実績と、人手不足を難民受け入れで緩和できるというしたたかな計算がある。ドイツには第二次大戦直後、東欧を追われたドイツ人1000万人以上が逃れて来た。そのため、難民となった経験のある親族を持つ人も多い。ユーゴスラビア紛争中の1992年には43万人の難民申請を受けたこともあり、昨年も20万件の難民申請があった。

独労働社会省によると、好景気のドイツでは60万人の人手が不足。さらに、少子高齢化で今後10年間に労働人口は650万人減少すると予測される。ショイブレ財務相は5日、60億ユーロ(約8000億円)の今年の財政黒字を難民対策に充てる考えを示し、財政的にも対応可能だと表明した。〉
毎日9月7日付
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▼読者のAAさんから、「ML civilsocietyforum」への投稿をこちらにも送っていただいた。


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竹山様

難民問題についてのマガジン有難うございます。大変参考になります。他のMLに表記のような投稿がありそれに対して返信を書いたので元記事(英文)と一緒に転送します。参考になれば幸いです。

#Subject: [civilsociety-forum:8980] Why Boat Refugees Don't Fly! - Factpod
#1

https://www.youtube.com/watch?v=YO0IRsfrPQ4

Why Boat Refugees Don't Fly! - Factpod #16

Gapminder Foundation Gapminder Foundation

This shows you why the refugees crossing the mediterranean by boat, can't just  fly to Europe.

現在の難民問題はイラク戦争、アラブの春 の結果だとはいえないでしょうか?

欧米は民主化支援と言う名目で戦争を起こしたり内乱に軍事介入したりしました。しかし各国の民主化勢力は民衆の支持があまりなくむしろフセイン政権やカダフィ政権に弾圧されたイスラム原理主義勢力が支持を集めリビアなどで政権打倒の中心になったしシリアでも状況は同じです。

これをどう評価するかは難民問題を考える上で欠かせないでしょう。またこれは現在の安保法制、集団的自衛権の問題とも無関係ではありません。安倍政権は安保法制を中国や北朝鮮を念頭に置いていて場合によっては中国と戦争をしたいという気持ちがあるようですが現実問題としてそれは無いとおみます。

むしろ危険なのは中近東(もしかしたら中国も)で民主化要求運動が過激化してそれに民主化支援という名目で軍事介入する可能性です。もちろん常識的には民主化支援と集団的自衛権とは無関係ですがこれまでの安倍政権のやり方を見ていればそう言って安心できません。

そのためにもイラク戦争、アラブの春、さらにはウクライナ問題などでの「民主化」支援はなにだったのか総括が必要ではないでしょうか。
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▼難民危機は欧州が自ら招いた、という評価がある。否定できない現実だ。
 “The migrant crisis in Europe is essentially self-inflicted,” said Lina Khatib, a research associate at the University of London and until recently the head of the Carnegie Middle East Center in Beirut.
INYT9月5日付

▼気になる点の一つは、この「欧州」という言葉に気をつけないといかん。「欧州」の中には西欧も中欧も東欧も南欧もある、ということ。

▼もう一つは、「西側」という時に、日本も入るのかどうか、ということ。当然、入る。


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メディア草紙(竹山綴労のメモ) @offnote_
「難民認定、対象拡大の方針 法務省」朝日9月5日付1面トップ▼遅すぎ少なすぎ。やらないよりマシ。日本の難民申請者は2014年は5000人。認定は11人▼法務省は「日本はアフガンとイラクで戦争協力した」事実を知らないのだろう。国境も地続きでないし▼あと数年はこの恥知らず体制が続く。
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池田香代子氏 @ikeda_kayoko の「にわかにシリア難民がフォーカスされているけれど、これまでもヨーロッパを目指す難民の奔流はアフガンから、イラクから、アフリカの各地から途切れる事なく続いている。クルド人というグループも。そして地理的にいま日本が最も考えるべきは、ミャンマーなどのロヒンギャではないかなあ」という意見もある。尤もだと思う。

いろいろメモしながらも、なかなか「我が事」として考えられない性(さが)なのだが、少なくとも「他人事」ではないと感じるわけです。この感じを失うと、ぼくの場合、「世界の中の日本」という視点も無くしてしまうだろうナ。


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竹山綴労


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