【編集方針】

 
「本が焼かれたら、灰を集めて内容を読みとらねばならない」(ジョージ・スタイナー「人間をまもる読書」)
 
「重要なのは、価値への反応と、価値を創造する能力と、価値を擁護する情熱とである。冷笑的傍観主義はよくて時間の浪費であり、悪ければ、個人と文明の双方に対して命取りともなりかねない危険な病気である」(ノーマン・カズンズ『ある編集者のオデッセイ』早川書房)
 

2013年9月22日日曜日

【オフノート】東郷和彦 40/新しい領土問題――沖縄と福島

【PUBLICITY 1948】2013年9月22日(日)


【オフノート】東郷和彦40
〈新しい領土問題――沖縄と福島〉


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absurdum est ut alios regat,qui seipsum regere nescit.

自己を支配することを知らぬ者が
他人を支配するは不合理なり。
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【本土から遠ざかる沖縄の心】

――ぼくは沖縄と福島も、「かたちを変えた領土問題」ではな
いかと思います。東郷さんは、「沖縄問題は戦後日本の民主主
義の象徴だ」とおっしゃっていますね。


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しかし、ここで顕在化した沖縄の矛盾は、自民党政権時代より
解決できずに放置されてきたものであり、この矛盾を見て見ぬ
ふりして蓋を閉じたのは自民党政権と、それを支えてきた本土
の人間である。われわれ本土人はその責任から逃れることはで
きない。

「月刊日本」2012年8月号、19頁
「本土から遠ざかる沖縄の心」
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東郷 その内容が、この問題についてぼくがいえる唯一のこと
です。いわば、徹底的な「ジコチュー」(=自己中心主義)に
陥っている。「自分のところに持ち込まれるのはいやだ」とい
う感情であり、ヒポクラシー(=偽善)です。

かつて米軍基地は日本全土に展開し、本土は沖縄と違わなかっ
た。その後、本土の米軍基地は一気に減っていったが、沖縄の
基地は減らなかった。その結果、差別が生まれた。そしてその
状態のまま沖縄返還がおこなわれ、現在まで続いている。若泉
敬が自決された理由もそれです。

せっかく引き取った沖縄だが、その後、本土と比べて差が縮ま
らない。これは何を意味しているのか。悩み抜き、若泉さんは
『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』を書いた。若泉さんの沖縄に
対する思いは、私の父親が感じていたものと通ずるものがあり
ます。

現時点での答えは一つしかない。「本土も引き受ける」という
ことです。しかし「ほんとうに引き受けてもいい」という人が
本土にあまりにも少ない。

2010年5月、鳩山さんの最後の時期に、政策変更が行われ、
日米間で合意したロードマップに戻ると決定されましたが、そ
の直後、全国知事会が行われましたね。自分の県に基地を持っ
てきてもいいと言ったのは、大阪の橋下知事だけだった。また
政治家のなかで、自分の影響力のある地域である北海道に基地
を持ってきてもいいと言ったのは鈴木宗男さんです。本土はも
っと負担すべきだという抽象論ではなく、自分のところでやっ
てもいいと言ったのはこの二人だけです。これで沖縄の民衆の
怒りがおさまるわけがない。

――「この時に報道された全国知事会の冷たさは、未だに忘れ
ることができない。そこには、沖縄の痛みを一切分かち合おう
としない本土の姿があった。そうした対応を見れば沖縄の人々
がどのような思いを抱くか、彼らはその想像力すら働かせよう
としていないように思えた」と書いておられましたね。

東郷 このままだと、いま佐藤優氏が口を酸っぱくして言って
いる「沖縄の自治化」「日・沖縄連邦化」の流れが強まるのは
必然です。

――「竹島の日」については大きな問題にならずにすみました
が、こんどはサンフランシスコ講和条約が発効した「4月28
日」に政府主催の主権回復を記念する式典を行いますね。沖縄
が納得するはずがない。

先日は琉球新報の1面に、沖縄の小学校と中学校で「琉球史」
を教える、という記事が出ていました。那覇市では、職員採用
試験の面接でウチナーグチのあいさつを取り入れるようになり
ます。沖縄には今、本土とはまったく違う物語が生まれ始めて
います。

東郷 きわめて大事な話です。もしも私が沖縄人だったら、間
違いなくこの琉球史の教育を推し進める行動に参加していると
思います。これこそまさにアイデンティティーの形成ですから。

そもそも沖縄には本来、ヤマトンチュと全然違う歴史がある。
清をめぐる冊封制度でも、琉球とヤマトは違う立場でした。琉
球は清に対してと同時に、ヤマトの実力支配にも服し、ダブル
の統治を受けていた。明治維新の時には、琉球王国はすでにア
メリカと条約を結んでいた。歴史が全然違います。

――沖縄の独立論もまた、尖閣問題をはじめとする領土問題と
直結していると思います。


【原発のコストは計上できない】

――また、東郷さんは国土強靭化法案に批判的ですね。東郷さ
んの「国土」という言葉をめぐるセンスにはヨーロッパでの体
験が息づいていることに、このインタビューの前半で触れまし
た。

ぼくは原発についてもこの観点で考えたいのです。福島では、
原発事故によって「領土が失われた」わけです。それこそ予見
される将来にわたって日本人が住めなくなった。この誰も変更
できない事実に対して、愛国者を自認する人たちの反応は鈍す
ぎると感じます。

東郷 竹山さんは、尖閣、竹島、北方領土の三つに沖縄と福島
を加えて、「五つの領土問題」があると認識しているんですね。

――そうです。

東郷 原子力発電の問題に関しては、「原子力のコストが安い」
と主張する方がいますが、それは「事故がない」という前提の
話であり、事故があった時のコストは高すぎて計上できない。
私は原発推進に危険を感じています。

――『原発のコスト』で大仏次郎論壇賞を受賞した大島堅一さ
んの著作が素晴らしいですね。領土を失ってなお、計算できな
い高いコストは無視する。行き場のない核廃棄物も含めて、や
はり原発問題は深刻な領土問題だとぼくは思っています。


(つづく)


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